楽園の地図100号 気軽な非日常、横浜の魅力

横浜/横浜/横浜/横浜
船長と助手 2025.07.25
誰でも
<a href="https://maps.app.goo.gl/epvmMZD9E1oByH2U6" target="_blank">HInode-cho,</a> Yokohama, Kanagawa, Japan

HInode-cho, Yokohama, Kanagawa, Japan

もくじ

はじめに
今週の楽園 気軽な非日常・横浜の魅力(横浜/日本)
今週のオアシス Cabaret Cafe うっふ(野毛/横浜/日本)
今週楽園で聴きたい音楽 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(横浜・横須賀/日本)
今週楽園に行けなかった人のために 私立探偵 濱マイク(横浜/日本)
おわりに

はじめに

気がつけばこの楽園の地図も記念すべき100号となりました。1年は約52週ですので、毎週更新するとだいたい2年間で100号となります。メールという媒体で、どこにもバズらずみなさんの脳内に語りかけるような連載をほぼ2年間続いてきたわけですね。

いきなり話が脇道に入りますが(旅でいえば冒頭から計画からズレますが)、ゲームのトランプってスペード・ハートなど4つの種類と1〜10、J,Q,Kの絵札を加えて13枚あって、4種×13枚=52枚となるんですが、これって元々占い用に使われていたトランプの1年の週の数を表しているという説があります。私はこの話を聞いてから、1年の1週間はまるでトランプを引くようなもので、たまたま出たカードが絵札でも取るに足らない平凡な札でも、年に1度しか巡ってこないカードだから大切に生きようと思ってます。

今週は記念すべき100号ではありますが、通常通りの更新、つまり、取るに足らない平凡な札(クローバーの6とか?)の週です。でも、通常通りには通常通りの魅力がやはりあると信じています。

今週は参議院選挙の結果なんかもありそのことについて書こうかなと思ったんですが、やはり100号ですので、「書く」という行為について。私はこの楽園の地図を通して、平均して毎週1万字ほどのテキストを書いておりますので、2年間で100万字ほどのテキストを紡いだことになります。我ながらよく書くことがあるものだと感心します。どうして私は書くことが好きなのか。突き詰めると、私は一人の時間を愛しているからだと思います。

私たちの生活はそれまでとは比べ物のならない情報量に溢れています。SNS、従来のメディア、LINEやWhatsAppなどのメッセージングアプリ、そして仕事も高度になればなるほど、自分以外の外部との調整が業務のメインとなってきます。こうして100年前の私たちと比べ、信じられない量の情報を浴びていて、私たちの脳は日々疲れています。しかし、テキストを紡ぐとき、私たちは一人であり、対話相手は私自身です。それは日々の情報の洪水を精査し、余分なものを洗い流すとともに、本当に大切なものは何かを気づかせてくれる大事な時間です。私はこの媒体を、なんで、なんのためにやるのかとこの約2年間、何度も何度もさまざまな人に聞かれました。でも、やってみると楽しいし、続けると精神が向上するとしか言えません。自分のためにやっていると言える状態ですので、この媒体はある意味では日記帳の類と変わらないわけですが、そんなテキストをみなさんに読んでいただき感想もいただける機会をいただいているなんてとても幸せなことです。どうか、100号書き終わった私に対して、頑張ったねと言わず、楽しんでるねと言っていただけると助かります。

とは言え、一応当初の目標が100号毎週休まずと決めていたので、今週は節目の週。来週は自分へのご褒美のため休ませていただきます。また、再来週以降は、少し立て付けを変えるかもしれません。今後もお楽しみに。では、本編。今日は久しぶりに国内より、横浜の魅力について。

今週の楽園 気軽な日常・横浜の魅力(横浜/日本)

先週がバンコクのチャイナタウン、ヤワラートの魅力でしたので、その流れから今週は日本のチャイナタウンである横浜について。でも、横浜=チャイナタウンというイメージは誰にでもあると思いますが、ここは人口377万人が暮らす街。実はチャイナタウンやベイエリア以外にもさまざまな魅力があって、私は日本の中でもかなり好きな都市の一つです。

実はインバウンド観光客にとって横浜は不人気な街の一つです(「訪日客バブルなき横浜」でホテル開業ラッシュ(東洋経済))。理由はさまざまあると思いますが、東京・京都の2都市が突出して高いところ、その2つを繋ぐ東海道新幹線が、横浜の中心部には停車しないところ(横浜は新横浜という少し外れたところに停車しますね)。考えてみれば横浜の魅力は、「異国情緒あふれる街」という点に集約されると思いますが、日本に観光に来ている観光客にとっては異国情緒よりもザ・日本を感じたいということでしょう。東京の下町や、京都なんかに人気が集中するのはうなづけるところです。

一方で、私も沖縄住まいの時期は東京に用事があるとホテルに泊まりましたが、年々東京の宿泊費用は上がっています。最近は東京に用事がある時にもあえて川崎市に泊まったり、川口市に泊まったり、東京23区を避けて安価なホテルに泊まることも増えました。一方で、横浜の宿泊費は東京と比べて格段に安いし、東京にも30分少々で出てこれるので、首都圏に用事のある滞在客の方におすすめの宿泊地であります。そこで、横浜の魅力を以下4つに分けて紹介します。

(1)横浜と言えば!中華街で中華料理
(2)赤レンガ倉庫とベイエリア
(3)意外と知られてない元町と山手
(4)野毛のせんべろの魅力

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(1)横浜と言えば!中華街で中華料理

横浜の魅力といえば、やっぱり食でしょう。

「菜華」の麻婆豆腐

「菜華」の麻婆豆腐

中華料理店は世界中のさまざまな場所にありますので、どこでも食べられる料理ではあります。でも、私が思うに日本の本格中華料理店、あるいは街中華で食べられるような麻婆豆腐を食べようとするのはとても海外では難しいように思います。まず、日本の中華料理店には必ずある麻婆豆腐は、中華料理のなかではそれほどメジャーな料理ではありません。メニューに存在しない店が多いです。どうしても海外で麻婆豆腐が食べたい場合、四川料理が起源ですので「四川」というキーワードを頼りにお店を探すことになります。しかし、四川料理は辛いことで有名。本場四川の麻婆豆腐は日本の麻婆豆腐よりも圧倒的に辛いです。つまり、日本人が好む、あのまろやかな辛さの麻婆豆腐は、海外ではなかなか味わえないといえます。ラーメンが元々中華をベースにして日本で独自進化を遂げたように、あの日本の麻婆豆腐も、日本にローカライズした、日本で誕生した中華と言えるかもしれません。

ということで、この麻婆豆腐のように、日本人の好みに合わせた、でも本場感のある中華が味わえるのが横浜中華街の魅力なのです。この中華料理については書いてると記事が終わるぐらい欠けてしまいますので、おすすめのお店を二つほど挙げようと思います。

「これぞ横浜中華街」という気分を味わいたければ、同發がおすすめ。中華街は観光地ですので、メインストリートに行けば行くほど、観光客向けに程度の低い中華料理を高価で売るお店も多いのですが、ここは中華街のメインストリート・大通りにある名店中の名店だと思います。

「同發」本館。歴史ある建物も魅力的。

「同發」本館。歴史ある建物も魅力的。

看板メニューはチャーシュー。軽くピーナッツが添えられているのがミソ。

看板メニューはチャーシュー。軽くピーナッツが添えられているのがミソ。

「同發」を進める理由は、訪れやすく雰囲気も味わえるメインストリートにあって、価格も歴史ある名店にしては抑えられているところです。金に糸目はつけんからとにかくうまい中華が食いたいんじゃい!と言う方は、通りを挟んだ状元樓もおすすめ。

さて、もう1店舗は、あまり教えたくない路地裏の名店を紹介しましょう。その名も楽園です(当メルマガ100号記念にふさわしい店名)。

本格中華を、街中華スタイルで味わえる。それが「楽園」の魅力

本格中華を、街中華スタイルで味わえる。それが「楽園」の魅力

楽園は、店構えは中華の名店というよりも街中華という雰囲気です。価格も街中華レベル。だけど、ここの中華はめっぽううまい。ですので、いちばん中華街で最もコスパのいい中華と言っていいかもしれません。おすすめの料理は白ネギがたっぷり乗った蒸し鶏。

中華には珍しい「引き算の魅力」。蒸し鶏。

中華には珍しい「引き算の魅力」。蒸し鶏。

まだまだおすすめのお店はたっぷりありますが、それはまたいつか紹介しましょう。

(2)赤レンガ倉庫とベイエリア

赤レンガ倉庫

赤レンガ倉庫

横浜といえば中華街と並んで赤レンガ倉庫やベイブリッジなど、ベイエリアの魅力でしょう。私はコロナの前まで、Green Roomという音楽フェスのために毎年出向いていましたが、このフェスは個人的に日本のフェスでいちばん好きかもしれません(苗場=フジロックや、幕張=サマソニ、と比べ、横浜という立地上フェスと観光をセットで楽しめるというメリットがあります)。

さて、Green Roomの開催地でもある赤レンガ倉庫は、輸出入を司る税関兼倉庫として明治政府によって1911年に竣工しました。戦後、1970年代には業務が激減し、倉庫としての役割を終えたと思われてきました。1989年には最後の業務が終わり、その後2002年に観光をメインとした施設として生まれ変わり、今にいたります。赤レンガ倉庫以外にも、MARINE & WALK YOKOHAMAや、横浜ハンマーヘッドなど魅力的な商業施設も増え、横浜のベイエリアは家族で行くのにぴったりの場所になりました。一方で、大人のみなさんにおすすめの横浜ベイエリア観光は、なんと言ってもクルーズです。

横浜のベイエリアを一挙に眺められておすすめ。

横浜のベイエリアを一挙に眺められておすすめ。

海のクルーズというと高いイメージがあるかもしれませんが、単純な水上バスであれば(オフィシャルサイト)、横浜駅から終点の山下公園まで乗っても1000円、途中で降りたら700円で乗れます。意外と安いでしょ? でも、気分は豪華クルーズ。ディナークルーズやランチクルーズなど洒落たものもありますが、どれも昼なら1万円、夜なら2万円する上に、そんなお金を払うなら中華街で豪遊したほうがもっと美味しいものが食べられると思います。この水上バス、夜間も運行してますので、気分によって昼の海を楽しんだり、夜のシティビューを楽しんだり、さまざまな使い方ができます。

横浜の夜景は東京からすごく近いのに非日常が味わえます。

横浜の夜景は東京からすごく近いのに非日常が味わえます。

(3)意外と知られていない元町と山手

さて、横浜に縁がない人のほとんどの人が、横浜といえばベイエリアと中華街で終わってしまう人が多いです。ですが、横浜はそれだけじゃないんですよ。まず、最も重要なエリアとして、元町と山手が挙げられます。東横線(みなとみらい線)の終点は、「元町・中華街」行きですが、中華街はわかるとして元町ってどこだよって思いの方はいませんか? 元町はかつての横浜で最も賑わった場所なんです(場所はこの辺)。元町は中央に商店街が一本ありますので、端から端まで歩いてもいいかもしれません。現在の横浜の商業地といえば、圧倒的に横浜駅前が賑わってますが、横浜駅前が東京でいうところの新宿だとすれば、元町は銀座というより丸の内のような場所。知らない人を連れて行ったら、横浜にこんな場所があったって知らなかったと驚くかもしれません。ジュエリーショップやら高級そうなブティックがたくさんあります。私的には「」という昭和の時代からある喫茶店がおすすめです。

で、この元町から山の方に登ると、文字通り「山手(やまのて)」エリアです。米国が日本を占領していた時期は、お金持ちの外国人が住んだことから古い洋館も多く、うろうろ歩いて建築を見てるだけで楽しいはずです。で、必見の場所は「港の見える丘公園」。港町横浜を見下ろせる気持ちのいい場所ですよ。家族できゃっきゃするのも、恋人と愛を語ったり口喧嘩したりするのにもおすすめのエリアです。

もっと書きたいことがあるんですが長くなってしまうのでさっそく(4)にいきましょう。それは「今週のオアシス」のコーナーで。

今週のオアシス Cabaret Cafe うっふ(野毛/横浜/日本)

(4)野毛のせんべろの魅力

さて、横浜といえば「中華街」に「ベイクルーズ」に「山手の洋館街」。もうすでになかなか素晴らしいですけど、とっておきのカードを一つお忘れではないでしょうか。野毛です。野毛というのは、JR桜木町駅の西口を出て大通りを越えたところにあるエリアで、いわゆるせんべろ(「千円でべろべろ」)ができるエリアです。東京の浅草ホッピー通り、新宿ゴールデン街、あるいは京都の木屋町通、大阪なら京橋や新世界など安く飲み歩けるエリアは無数にありますが、野毛はその懐の深さや、奥深さ、そしてほのかなお洒落感という意味で、他のどのエリアよりいいと個人的には思います。ザ・飲屋街といった趣のホルモン系のお店「野毛ホルモンセンター」とか、店構えから昭和感満載の焼き鳥屋「末広」、どこに行ったらいいかわからないというお客さんを吸い込む、横丁的な「たべもの横丁」など、いわゆるオールドスタイルの居酒屋もあれば、タコスを肴にテキーラを飲むなんてしゃれおつな飲み方もできるメキシコ料理屋「AFRO TACOS」などなど。

もちろんレストラン系だけでなくバー系も豊富で、昭和モダンのオールドスタイル「旧バラ荘」、どぎつい内装が面白い「夜光虫」なんかがおすすめです。

そしてなんと言っても、野毛といえば私が大好きなミュージックバー、ライブバーの類が多いのです。かつて1933年に開業し、日本のジャズ喫茶の草分け的な存在となった「ちぐさ」があった野毛には、その後もジャズバー、リスニングバーがたくさんあります。比較的若者でも入りやすいけど音は本格的な「ダウンビート」、白髪のマスターがいる、いわゆる昭和チックなソウルバー「MUSIC &Bar Breezin'」、ジャズライブを行うオーセンティックな「ドルフィ」、若いマスターがやってるブラッセリーを兼ねた気軽に入れるジャズライブバー「ル・タン・ペルデュ」なんかがあります。

早口にたくさんのお店を語りましたが、そんな野毛好きな私が、最終的にたどり着いたお店が、「Cabaret Cafe うっふ」です。ここはディープ中のディープ。でも最高。楽園のような場所です。まず、Cabaret=キャバレーという、昭和の中に忘れられたような響き。心の中で構いません。ぜひ、「キャバレー」と言ってみてください。昭和にワープしたような、甘美な響きでしょ?笑。思わずキャバレーってどんな意味でしたっけと思って調べたのですが、キャバレーとはフランス語由来の言葉で「ダンスやコメディショーなどパフォーマンスを行う舞台のあるレストランやナイトクラブ」のことだそうです(Wikipediaより)。確かにこのお店は、ジャズライブを行ったり、ドラァグクイーンのダンスショーがあったり、ジャグリングなどアクロバティックなショーがあったり、まさに定義上のキャバレーに沿ってます。

だいたいは目の前に今日どんな出し物があるのかが出ているので、ジャズかな、ダンスショーかな、などと確認して入ってみてください。ちょっと苦手な演目だったとしてもご愛嬌。アットホームな雰囲気があなたの苦手意識を切り崩してくれること請け合いです。

ステンドグラスが、どこか19世紀のパリみたいな気持ちにさせてくれる舞台。この日の演目はジャズライブでした。

ステンドグラスが、どこか19世紀のパリみたいな気持ちにさせてくれる舞台。この日の演目はジャズライブでした。

というわけで、横浜のよりは野毛で食べて飲んでショーを見て、私はお酒を飲めないから誰か飲める人を連れて行ってべろべろに酔わせていつも謎めいたあの人の本音を聞き出してやる!というのにぴったりの場所です。そんな下心なくても楽しい場所ですけどね。横浜、ぜひみんなで一緒にいきましょう。

今週楽園で聴きたい音楽 港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(横浜・横須賀/日本)

横浜特集なんで横浜の音楽を。横浜は日本のポップス、特に歌謡曲やニューミュージックに愛された土地で、「ブルー・ライト・ヨコハマ」から始まり、「伊勢佐木町ブルース」みたいなコテコテの曲もありますが、一方で山崎まさよしの「One more time, One more Chance」(歌詞中に「桜木町」という地名が出てくる)や、松任谷由実の「海を見ていた午後」(「山手」という言葉と実在のレストランが出てくる)、SEKAI NO OWARIの「炎と森のカーニバル」(意外かもしれませんがこれは横浜の曲)、サイプレス上野とロベルト吉野の「ヨコハマシカ」や、あるいは存在そのものが横浜と密接に結びついているクレイジーケンバンド今も多くのアーティストに愛される土地、それが横浜です。

でも、極めつけの横浜ソングは表題の、港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ(1975年)でしょう。私はこのコーナー、特に映画と音楽のコーナーで、50年代だとか70年代とか昔の曲や映画をよく紹介するので、いったい何歳なんだとか、古い話ばかりするなと言われがちですが、私は時間というものは一方向ではないと考えています。メディアというのは常に今、最新を映し出すものですが、Twitter以降、人々は「今」こそが価値があり、それ以外の情報は価値がなくなってしまったように誤解していると思います。でも、過去が強烈な体験を伴って現代に甦ってくることはあると思うし、それはどんな「今」よりも未来の形をしているかもしれません。一度固定概念を忘れて、で、みんなどこかで聴いたことのあるはずのこの曲を聴いてみてください。

どうです。なんてヘンテコな曲なんでしょうか。そして、ヴォーカルの宇崎竜童がいわゆる不良っぽい格好をしていることでちょっと忘れがちですが、とても挑戦的でインテリジェンスな曲だと思います。

まず、曲なのにほとんど、というか全く歌っていない(歌はコーラスのみ)。かと言って現代風にラップということでもなく、「語り」しかしていません。こんな曲をひっさげて当時の歌謡界に殴り込むなんて、なんて挑戦的なのでしょう。挑戦的という意味で、とてもロックだと思います。そして、不良性を打ち出して喧嘩とか暴力、あるいは性の香りを簡単に出すかといえばそんなことはありません。この曲の上品なところは、あくまで、行方不明になった女性と、それを探そうとしている男性の話があるだけで、表面的には何も起こっていません。彼ら、彼女らの間に何があったのかも、なにもわかりません。ですが、そのことでこの曲は、この行方不明の女性、それを探す男性、そして他を当たってくれと言っているおそらく水商売風の店主のそれぞれに、何かしらのストーリーを感じさせる余白をこれでもかと残しているところにあります。そしてこの曲がずしんとくるのは、この曲に登場する三者それぞれに、孤独を感じさせる点にあります。それぞれの立場になってみると、ここに浮かび上がってくるのは喪失感です。それがこの曲が長く愛された理由だったと思います。たった4分の曲ですが、この密度は短編小説一編分はあると思います。

今週楽園に行けなかった人のために 私立探偵 濱マイク(横浜/日本)

横浜の曲の次は横浜の映画、いや、ドラマ。いやー、世代がバレちゃいますが、私立探偵濱マイク、特にドラマ版、毎週好きでよく見てました。影響を受けすぎちゃったのか、私、多感な時期になりたい職業のトップ3に探偵が入ってました。実際の私立探偵はこんなダンディな存在じゃなく浮気調査なんかをコツコツやっていく仕事だと思いますが、とにかくこのドラマの永瀬正敏のかっこよさに惚れてました。そして、この作品は横浜が舞台なんですよね。私にとって横浜のイメージはいつまで経っても「濱マイク」で止まってます。それほど強烈だったのでしょう。

このドラマは、まだ日本の地上波放送に夢があったギリギリの時代で、永瀬正敏の他にも、中島美嘉、市川実和子、村上淳、阿部サダヲなど脇役も豪華で、その上一話完結で、その回ごとに監督が変わるという(ここがすごく制作が大変だったろうし、実験的な番組だったのだろうなと思う)豪華なドラマでした。監督が変わるということはまったく内容が変わる恐れがあるけど、濱マイクというキャラクターがしっかりあるだけに、連続で観たときの一貫性があったんだなと思います。ちなみに、一話交代の監督も何人か列挙しますと、行定勲(第4回/代表作:『GO』『世界の中心で愛を叫ぶ』など)、中島哲也(第9回/代表作:『嫌われ松子の一生』『告白』など)、石井聰亙(第8回/代表作『狂い咲きサンダーロード』など)、須永秀明(第5回/代表作:『けものがれ、俺らの猿と』、MV監督として有名でDragon Ashのほぼ全曲のMVを担当)、アレックス・コックス(第11回/代表作:『シド・アンド・ナンシー』、『ラスベガスをやっつけろ』)と超豪華布陣。よくこの豪華監督と豪華俳優を集めて毎週の連ドラのスケジュールにはめ合わせたなと思います。楽園の地図が毎週更新だからってひいひい言ってる場合じゃないっすよ、みなさん。

さて、この当時の名うてのディレクターを呼んで、当時最もかっこいい男性俳優だった主演の永瀬正敏を撮るのですが、影の主役と言ってもいいのが横浜の街の魅力です。マイクが居候していた事務所は横浜日劇という横浜に実在していた映画館の2階の屋根裏という設定でした。舞台となる、ちょっといかがわしい人も多く暮らす黄金町(こがねちょう)の風景。もし濱マイクのドラマや映画を観て、作品の雰囲気に浸りたいのであれば、東京から簡単に遊びに行ける横浜・特に舞台となった黄金町や伊勢崎町の風景をお楽しみください。考えてみれば、映画を紹介したり、その撮影地を観光スポットのように取りあげるという楽園の地図の原点は、濱マイクにあったのかもしれません。今ならhuluで観れますよ!

おわりに

横浜・野毛のレコードバーにて

助手「船長〜。いろんなところを旅してきて、今は横浜に寄港中ですよ。いい音楽ですね、ここ」
船長「なあ助手。俺、昔からやりたい仕事があってさ。転職しよっかな」
助手「ええ!何に転職するんですか?」
船長「探偵」
助手「探偵と船長じゃぜんぜん職能関係ないでしょ。なんで探偵になりたいんですか?」
船長「なんかかっこいいから。今回だけでも転職してみるわ」
(と言って重めのコートと深めの帽子をまとう)
探偵?「つくづく、探偵っていい響きだな」
助手「ま、まあ、私の『助手』って職業は探偵の相方としても機能するから、なんでもいいっすよ」
探偵?「ちょっと人を探していて。あんた、この子知らない?」
助手「すっかりその気ですね」
探偵?「何? 本牧埠頭で怪しい取引?? 行かなくちゃ」
助手「船長のこういう一人で悦に入っちゃうとこどうにかなんないかなー。こんな感じでもう100回か。やれやれ」
探偵?「おい、ワトソンくん。行くぞ!」
助手「このコーナーはずっとくだらないとは思いますがクビにならないよう頑張ります。200回までどうぞよろしく。。。」

(つづく)

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