楽園の地図99号 チャイナタウン(ヤワラート)の魅力

もくじ
はじめに
今週の楽園 チャイナタウン(ヤワラート)とソイナナ(バンコク/タイ)
今週楽園で聴きたい音楽 フライディ・チャイナタウン/泰葉(横浜/日本)
今週楽園に行けなかった人のために チャイニーズブッキーを殺した男(サンセット・ストリップ/LA/アメリカ)
おわりに
はじめに
誕生日を迎えて一つ歳を取りました。44歳です。また一つ、墓場へと駒を進めたんだなという感慨はあります。
まだまだやりたいことは尽きませんが(たぶんこのままだと多くをやり残して死ぬ。。)、やりたいことを一つでも成し遂げるためには、まずは健康が第一だなと思います。健康的に生きるためにはやりがいが必要ですが、少なくてもこのメルマガは私にとってやりがいのあるもので、支えてくれる読者の皆様のおかげで今日も生きてるなと心から感じています。
そして、当メルマガも気づけば99号目。100号ということで何か派手にやりたい気もしますが、何が派手なことなのか思いつかないので、いつも通りだと思います。これはライフログですからね。あ、でも前もって言っておきますが、100号を終えたら、少しサバティカルをいただこうかなと思っています。
今週もバンコクにおりますので、バンコクの話題を書きたいと思います。もうバンコクはいいよ、タイはいいよとお思いの方、まあまあ、いいじゃないですか。本当に面白い街なんですよ、バンコク。誕生日だからおおめに見てください。
今週の楽園 チャイナタウン(ヤワラート)とソイナナ(バンコク/タイ)

Asia Today Bar(ソイナナ)
バンコク着いたらカオサン通りはそこそこにソイナナを目指せ!
日本人や欧米人から観たバンコクの魅力を一言でいうとexoticということになるかと思います。しかし、中国本土や日本にあるexoticと、タイのexoticは微妙に異なります。日本や中国のexoticが純血の東洋的なものであるのに対して、タイのexoticは混血と言えるでしょう。バンコクの魅力はタイ人のみで完成するものではありません。バンコクの魅力には、ツーリストそのものが持ってる魅力も混ざっていると思います。つまり、旅行客そのものがexoticを演出しているともいえます。旅行者と移民と地元民が垣根なく混ざり合い、溶ける街。怪しげな欲望と、すべての商品が道端で売られるダイナミックさと、自由を求めるツーリストと、小銭を稼ぎたい地元民が重なり合う。それがバンコクの魅力です。この混血の魅力はかつて香港にあったものと似ていますが、残念ながら香港からはその魅力が薄れるようになり、バンコクが今はアジアのexoticを担っていると思います。
では、そんな人種が混じり合うような、インターナショナルな感覚にはどこに行けば会えるのか。かつてはカオサン通りだったと思いますが、カオサンは相変わらず欧米アジア系観光客で賑わっているものの、毎日開催される騒音フェスのような場所になっていて、はっきり言ってあまり魅力的な場所ではなくなってしまいました。先週カオサン通りについて書きましたが、あそこに行くたびにエントロピー増大の法則という単語を思い出します。つまり、カオス。
そんなカオサン通りに代わって、インターナショナルでエキゾチックなVenue(今日はカタカナとアルファベット多くてごめん。1ヶ月異国にいますからね。。)としておすすめするのは、チャイナタウン、特にソイナナ(Soi Nana)と呼ばれるエリアです。
位置関係(楽園の地図作成)
バンコクの街中は実はかなり広いエリアですので(体感としてはバンコクの市街地はニューヨークのマンハッタン島、東京の山手線の内側よりワンサイズ小さいぐらいのイメージ)、ここからは地図で位置関係を確認しながら読み進めて言ってもらえると助かります。そもそもバンコクのチャイナタウンの歴史は、18世紀に遡ります。中国南部を襲った飢饉を乗り越えるために主に潮州系の中国人が移り住んで港湾や工事現場で肉体労働をしたことが、そもそものチャイナタウンのきっかけです。その後、アヘンの取引、賭博、売春などいかがわしい商売を行い、やがて貿易商となって富を得て、タイでは大きな勢力と発展しました。これは世界にあるチャイナタウンでも最も古いものの一つです。
バンコクの中華街の中心にはヤワラート通りという通りがあります。ヤワラート通り(Yaowarat Road)。ヤワラートとは、タイ語で「若い王」を意味し、タイの王様ラーマ5世が、息子である皇太子に授けた通りです。

ヤワラート通り(Yaowarat Road)
まず、ヤワラートといえば中国語の看板がたくさん並んでいます。現在、道路に迫り出す看板といえば香港の専売特許でしたが、最近は規制が厳しくなり香港の迫り出し看板は撤去される傾向にありますが、ここ自由の国タイでは各店舗が思い思いの看板をせり出しています。特にレストランと並んで「金行」という業態が大変目立ちます。金行とは、いわば金を使った金細工のお店。いわば中国風のジュエリーショップですね。
友人にタイへの旅を勧めるとタイ料理が苦手で、、と話す人が多いです。確かにタイ料理は食べ物によってはとても辛くて好き嫌いありますが、そんな人はチャイナタウンに泊まって毎日中華料理を食べればいいのにと思います。それもバンコクらしい旅のあり方だと思います。タイの物価を反映して、ここでは日本では手がでないような高級食材もたくさんたべられます。

フカヒレスープ(Hengdy Shark Fin Shop)

北京ダック
中でもバンコクのチャイナタウンの点心は絶品。老舗ならフアセンホン(和盛豊)、新興勢力のヒップなお店ならLaoteng(楼顶)がおすすめ。フアホンセンの蒸しパンはぜひ食べてほしいし、ラオテンは内装や料理の盛り付けもおしゃれでインスタ映えの場所、と思いきや味もめちゃくちゃ美味しい。私は老舗びいきだけど、どちらかといえば今の感覚を取り入れてフュージョンしたラオテンの方が好きかもしれない。いやでもどっちもうまい。ぜひ両方味わってみてください。

Laotengはデザートまでじっくり味わって!写真はグラスジェリー(亀ゼリー)。おしゃれ。
そんなチャイナタウン気分で盛り上がるなら、ホテルも中国っぽいところでいきましょう。おすすめはShanghai mansion Bangkok。ここは、海外から見た中国っぽい意匠を取り入れたブティックホテル。中国のようで中国でない。どこか異国のパラレルワールドに紛れ込んだ気分が、「バンコクのチャイナタウン」という立地にぴったりです。

Shanghai Mansion Hotel
でまあ、看板に圧倒されて中華料理食べて、金行のぞいてみたり永遠に続くストリートのベンダーを見ていくので十分観光的にバッチリですが、もう少し遊びたいあなたはこれに加えて、中華街から徒歩圏内のタラート・ノーイとリバーサイド(位置は先ほどの地図参考。こちらは昼から夕方にかけてがいい感じ)、ソイナナ(バー街。夜遅く)をぜひとも味わっていただきたい。今、最もおしゃれなタイ人とヒップなツーリストが集まるエリアです。
タラート・ノーイは川沿いの、未開発だった古い路地(タイ語でSoi)が、若いアーティストのグラフィティや、おしゃれなショップの進出で観光地化した地域。昔からこの地に住んでいるであろう、昼間から青空の下で酒を飲む地元民のおっちゃん、おばちゃん、そして白人系や一部物好き(私のような)の旅行客、さらに自撮り棒を持って路地に集まる地元やアジア系の若者のインスタグラマーの3種類の人類がランデブーする不思議な場所です。が、楽しいです。

狭い路地にグラフィティアートやおしゃれカフェ、センスのいいおしゃれ小物屋が集まる場所。ウロウロしてみて。
タラート・ノーイの締めくくりに、夕方になったら川が見えるリバーサイドのレストランに行くのがいいと思います。オープンエアーでも風が気持ちいいんですよ。タイ人は屋上やオープンスペースの使い道がうまいです。

川沿いのレストラン。これはRiver Vibeという店。おすすめ。
さて夜も更けてきたら、いよいよソイナナに出動しましょう。ここはセンスのいいバーが狭い通りにひしめいています。たとえばジャズの演奏が聴けるライブバーBrown Sugar、タイの民族音楽のライブが聴けるTep Bar、はちみつを使った創作カクテルが飲めるAsia Today Bar(この項目のトップの写真)、昼間はエディブルフラワーを使ったケーキを出すカフェ営業を行い、夜はバーへと様変わりするWall Flowers Cafe、 チャイナタウンの怪しさを表現したHipなバー八號(Ba Hao)。ここで紹介したすべての店が最高ですが、あとはお店をのぞいたり、漏れてくる音楽や話し声を聞いたりしながら、その日最高にHipなお店を選んでみましょう。もちろんハシゴもOK。

中国式の古い家屋(薬屋だと思う)をヒップなバーに改装したBa Hao。
こうして世は更けていくわけです。辛いタイ料理、マッサージ、お寺にナイトマーケット。そういう健全なタイ観光からスリップして、あえてバンコクの中華街をあなた好みの方法でトリップ、ナイトクルージングするのはいかがでしょう。
バンコクはエキゾチックで見どころがいっぱいの大都会ですが、こうやってさまざまなお店をホッピングしながら、チャイナタウンだけで1週間は遊べますよ。
今週のオアシス ウライ・ブレイズド・グース(チャイナタウン/バンコク/タイ)
さて、おしゃれモードはここで終わりにして、今日紹介するのは、チャイナタウンの飯屋です。ここ。

店先になんだかわからない発泡スチロールのケースがある。けどミシュラン(ビブグルマン)掲載店。
ここのガチョウ肉がうまいんですよ。写真を見せたらもうテキストはいらない気がします。はい、こちら。

料理の写真って自動で明るくしたり補正かけたりするんですが(美味しく見えるようにするために)これはあえて補正せず、そのままリアルな写真をお届けします。うまそうでしょー。唐辛子天国のタイに疲れた胃袋に、優しく適正に醤油ベースのすっきりソースで煮込まれた鴨肉の優しさが染みます。タイは頭や心には案外優しい、オアシスのような街ですが、胃腸には若干ハードです(笑)。そこで、バンコクのオアシスとしてはこの鴨肉店をオアシスとして紹介します。ミシュランビブグルマン掲載店。そんな事実もどうでもいいぐらい、一気に平らげてしまいました。
ガチョウ肉は、味としては鴨肉によく似ていますが、私の感覚では鴨肉は少し歯応えがあってジューシー、対するガチョウ肉は柔らかい印象。肉質の違いではなくこの店の調理方法の違いかもしれませんが。端っこにさりげなく置かれた血を固めた鴨血豆腐(鴨肉ではないから、ガチョウ血豆腐か)は好き嫌いあるかもしれませんが、栄養価満点なのでお試しあれ。喧騒のチャイナタウンにあって、時が止まったかのような雰囲気も最高です。
ウライ・ブレイズド・グース(Urai Braised Goose)(Google Map)
今週楽園で聴きたい音楽 フライディ・チャイナタウン/泰葉(横浜/日本)
チャイナタウンを歩くときいつも口ずさんでます
今日はチャイナタウンがテーマだったのでこの曲しかないでしょう。私的なチャイナタウンのテーマソング。世界には様々な曲がありますが、チャイナタウンをテーマにした曲ならこれが世界でいちばん有名な気がします。チャカ・カーンや、リアム・ギャラガー、Bleachersも歌ってはいますが、日本人ならやっぱり泰葉のFly-Day Chinatownでしょう。でもこの曲、日本だけで愛されてる曲ではないですよ。5、6年前のシティポップブームあたりから様々な国で聴かれるようになっています。Googleのトレンド検索を頼りにすると、日本の他に中央アジア(カザフスタン、キルギスなど)、ロシア、韓国、フィリピン、シンガポールでよく聴かれています。それにしても、韓国やアジア圏はよくわかりますが、この曲が旧ソ連圏でウケてるという実態にはちょっと驚きます(数は少ないですがちゃんとアメリカやヨーロッパでも聴かれてる)。ロシア兵やウクライナ兵が戦地で聴いて癒されてると思うとグッとくるものがありますよね。
この曲が世界で愛されてる証拠として、例えばフィリピンのDJ、EVADE FROM 宇宙にリミックスされたり、
韓国のNight Tempo(シティポップ好きならお馴染みの名前)にもリミックスされ新しい命を吹き込まれています。
・・とにかく同曲で検索すればたくさん事例は出てきます。この曲は今から44年前(1981年発売、書き手の私と同い年)ですが、EVADE FROM宇宙版やNight Tempo版を聴いていただくと、かなり原曲の魅力に忠実なリミックスに仕上がっていて、つまり原曲に時代を飛び越える力があって、かなり完成度が高いことがわかります。私は特に原曲の飛び跳ねるような前奏からいきなりトップスピードでサビに向かう流れが好きです。このスピード感がチャイナタウンの慌ただしさと重なるように思います。のちにサビ始まりの曲はたくさん登場しますが、この頃はまだサビからスタートする曲もそれほど多くなかったんじゃないかな。意味のあるサビ始まりだと思います。
歌詞に注目すると、特に「ジンガイ(外人)」という表現がなかなかエッジが効いていて耳に残りますが、その後、「私も異国人ね」と締めることで、この曲はさりげなく人種差別とかを軽く飛び越えたメッセージを放っています。つまり、例えば日本人が中華街に行けば、中国人の多い場所において私は異国人であるし、誰しもが異国人であるというあたりまえの事実を突きつけています。またそれは差別ではなく裏側の感情「憧れ」への処方箋でもあります。例えば欧米人への憧れなどがあったとして、そんな私も誰かから見れば異国人であり、憧れの対象でもあると歌っているように思います。日本に排外主義の風が吹く今こそ聴いてほしい名曲。なお、Friday(金曜)ではなく、Fly-day(飛ぶ日?)なのでご注意を。
さて、この項目を書くにあたってこの曲のことを少し調べてみたのですが、なんとこの曲、発売当時はオリコン69位とほとんど売れず、埋もれていた曲がよく生き返ったなと思います。まさにインターネット時代に過去のストックが再び注目された好例だと思います。中華街を歩く時、あるいは中華料理を作るときのBGMとしてご活用ください。
今週楽園に行けなかった人のために チャイニーズブッキーを殺した男(サンセット・ストリップ/LA/アメリカ)
中華街、チャイニーズをテーマにした作品は数あれど
泰葉のチャイナタウンが1981年。そこからさらに5年遡って1976年、「チャイニーズブッキーを殺した男」(原題:The Killing of a Chinese Bookie)。私が大好きな映画であります。中華街を舞台にした映画もいくつか思いつきますが(「チャイナタウン(ロマン・ポランスキー)」、「唐人街探偵シリーズ(中国)」などなど)、私にとって、怪しげな中国マフィアをテーマにした映画であれば、この映画が最高峰です。様々な映画でチャイナタウンは犯罪の舞台となってきましたが、その怪しげな魅力をこの映画は放っています。
私は自分自身に貫禄や腕っぷしがないこともあって、ギャングもの、ヤクザものがそれほど好きではありません。さらに集中力の問題か自分がバカなのかはわかりませんが、サスペンスもジャンルとしてそこまで好きではありません。でもこの映画はそのどちらの要素も入りつつ、こんなにも好きな映画はありません。予告編冒頭、不敵な笑みを浮かべながら歩くベン・ギャザラの貫禄。1930年生まれのギャザラは46歳。今の私とそれほど変わりませんが、この余裕、ダンディズムはなんでしょうか。また、今の映画ではあり得ないほど「無音」のシーンが多く挿入されています。今はまるでMVのようにずっと音が映画中に鳴っている時代ですが、この頃は音がいらない状況では本当に音がありません。でも、そのことが余計にこの映画の緊張感を高めているように思います。話を始めるまでの間、何か意図があるのかないのか、相手を見つめる瞬間。映画という媒体が本来持っている緊張感とかアヴァンギャルドさとかが画面から溢れています。偶然撮れてしまったとでも言いたげなカメラワークもいい。
ちょっと内容にも触れましょうか。ギャザラ演じるコスモ・ヴィッテリはストリップ小屋のオーナーで、芸術的なステージを展開しています。しかし彼はギャンブル狂いでたびたび借金を作ってしまいます。ある日、ある男の殺害条件に借金を帳消しにするという悪い取引に乗ってしまいます。その男こそ、地元の中国マフィアの大物、チャニーズ・ブッキー。
ストーリーは実に単純で一人の破滅する男の話ですが(50年近く前の映画なのでネタバレとかは言いっこなし)、ギャザラの苦悶、孤独感、強がりなどを表す表情は目に焼き付いて離れません。ギャンブルに夢中になって借金を作るギャザラも、マフィアを殺して逃げ惑うギャザラも、本当にダサい瞬間ばかりなのですが、なぜかこの中年男性の苦悶が私のハートを掴んで離しません。この男は嵌められたのか、あえてこの状況を楽しんでいるのか、悪い男なのか、いい男なのか。この映画に共感するということは、私にもこういうダンディズムが隠れているんでしょうか。私とは似ても似つかない存在ですが、だからこそ惹かれます。何度も見たくなる映画の一つです。最後まで書いて思いますたが、実はこの作品はあんまりチャイナタウンは関係ありません。あしからず。

おわりに

(チャイナタウンの怪しげなバーで)
男「船長。早く決断してもらわないと」
船長「ちょっと待ってくれ」
男「港に俺たちの仲間がいる。そこに運ぶだけだよ」
船長「・・・」
男「かわいい従業員に給料をはらわなきゃならないんだろ」
船長「・・・わかった」
(男、立ち去る)
船長「・・・」
店員「閉店ですよ」
船長「ああ」
(船長、ゆっくり立ち上がり外に向かう。先ほどまで降っていた雨は止んだようだ)
船長「この歳になって運び屋まがいのことをやるとはな」
(船長の運命やいかに。つづく?)
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