楽園の地図102号 世界の最新ニュース(中国本土+香港編)

CBD, Beijing, China(2016)
もくじ
はじめに(中国について理解を深めよう)
今週の楽園 中国(本土)、たまに香港・マカオの最新ユース。
エリア1 北京、北京周辺
・北京のイカゲーム会場? ド派手なピンクビル「五猫娯楽モール」(朝陽区)
・伝説の歌姫の娘、リア・ドウの曲がとても北京っぽい雰囲気。そして胡同の魅力(東城区)
エリア2 上海、上海周辺
・人型ロボット、ロボコップが交通整理する?(黄埔区)
・ルイ・ヴィトン、上海に「船」を作る(南京西路)
エリア3 深圳、広州、広東省
・秋葉原の30倍規模の電気街?電脳シティ「華強北」から目が話せない。(深圳)
・「北上消費」で賑わう食の都、深圳と、世界的ブームのチーズフォームティ(深圳)
エリア4 成都、重慶、四川省
・サイバーパンク、8D都市、とにかく建築物がヤバい重慶の魅力(重慶)
・中国一のHip Hopシティ成都から目が話せない!(成都)
エリア5 その他の中国本土
・世界の資源戦争ゲームチェンジャーになるのか?「人工太陽」開発中。(合肥市)
・それは中国版ブレードランナーか? 機械の音声が溢れる都市を描く「新世紀ロマンティクス」(大同市他)
エリア6 香港・マカオ
・Kiri T「哀傷和愛上算不算同音字」は何に傷ついてる?(香港)
・映画「星くずの片隅で」は現代香港の空気が溢れている(香港)
はじめに
中国について理解を深めよう
みなさんは、中国、あるいは中国人と聞いて、何を想像しますか? 日本に住んでいる外国人のうち、中国人は最大のグループです(台湾や香港をのぞいても、中国がぶっちぎりで多い)。私は民泊を運営していて、ゲストを泊めていますが、日本人を除くと中国人のゲストが最多です。そんなお得意様ではありますが、一方でマナーが悪いと悪評も立ちがちです。なるほど確かに中国人は日本人と比べてうるさくて、団体で行動して、なんとなく感じが悪いのもわかります。個人的には、単に目立って数が多いだけで、インド人よりもましかな、なんて思うんですが。どちらにせよ、日本国民の間には、長らく中国人ヘイトが蔓延しています。
一方で、どんなに中国人が嫌いでも、中華料理が嫌いという人はあまりいません。漢字を書かない日本人もいないでしょう。場合によっては漢方を飲んだり麻雀を親しんだり。私たちの文化は、確実に中国の影響を大きく受けています。この後紹介するとある曲で歌ってますが、お前の使ってるあれも、お前が食べてるそれも、全部メイドインチャイナなんだぜ。そして今、ロボット、AI、ドローン、自動運転などの先端分野で、明らかに中国の技術は日本の技術を上回っています。
今日はそんな中国について理解を深めるべく、北京、上海など各都市から最新ニュースをお届けします。
今週の楽園 中国(本土)、たまに香港とマカオの最新ニュース
100号を機にリニューアルした楽園の地図ですが、今日は中国(本土、大陸とも呼ぶ)、つまり中国共産党の統治が及ぶ中華人民共和国という国と、かつての英領、ポルトガル領だった香港・マカオより、最新のニュースをお届けします。
客観的に見て、いま、世界で、最も革新性の高いことをやっているうち、多くの分野で実は中国が先頭集団を走っています。自動運転、EV、ドローン、AI、果ては「人工太陽」まで。いつの間にか中国はアメリカやEUと並び、世界を技術的にリードするトップランナーの一つになりました。
さらにこの国の政府には、まだまだ経済的な余裕があり、日本では信じられないほどの予算を研究開発にぶち込めます。しかも、中国政府は、国民の理解を(ある意味では)得る必要がありません。あの強権を発揮中のトランプといえども、選挙で負ければ最悪投獄だってあり得る立場です。対する中国のリーダー、習近平は事実上、独裁政権を築いていて、国民の信頼を得る必要がありません。
わずか10〜20年ほど前まで、日本のインターネット空間で中国といえば嘲笑の対象でした。スイカが爆発したり、毒入りの餃子が見つかったり、国の威信をかけて作ったロボットがどう見ても安物だったり。現在も中国の一人当たりのGDPは世界平均に届いたレベルで先進国には到底届きません。
ところが、アメリカが仕掛ける関税戦争や大統領の中国への発言でも分かる通り、今、アメリカが、本気で自身の立場を脅かすかもしれないと思っている唯一の国が中国であることも事実です。アメリカが密かに恐れ、その行動を注視する大国。古くは世界中に中華料理と足ツボマッサージを、新しくは世界中にTIKTOKとレストランの配膳ロボットを広めた中国では今どんなことが起きているのでしょうか? 楽園の地図では、6つのエリアに分けて、最新ニュースをお届けします。

中国のエリアイメージ
現在、中国、中華人民共和国には14億800万人の人が住んでいると言われています(2024年)。最近インドに抜かれて世界2位となりましたが、世界人口が82億と言われているので、世界人口の17%、実に地球上の人類のうち6人に1人が中国人です。そんな中国は、中国という一面で捉えてもあまり意味がないかもしれません。そこで楽園の地図では、中国エリアを6つの地域に分けて、最新ニュースをお届けします。
エリア1は北京とその周辺(地図中赤で塗られた場所)、
エリア2は上海とその周辺(地図中青)
エリア3は広州、深圳、広東省(地図中緑)
エリア4は成都、重慶、四川省(地図中黄色)
エリア5はそれ以外の中国本土(地図中紫)
エリア6は香港・マカオ(地図中水色の星のあたり)
から、最新のニュースをお届けします。
エリア1 北京

北京のイカゲーム会場? ド派手なピンクビル「五猫娯楽モール」(朝陽区)
伝説の歌姫の娘、リア・ドウの曲がとても北京っぽい雰囲気。胡同の魅力(東城区)
ニーハオ! 北京特派員の楽園の地図です。このブロックでは、北京市と、その隣にある天津市、そしてそれらをぐるりと取り囲む河北省を含んだエリアからレポートします。ちなみに北京市、天津市、そして河北省の人口を足すと1億人を越えていて、日本の総人口に匹敵する人口が北京周辺に住んでいることになります。このあと何度も人の数の話題をしますが、中国、人多すぎ。
さて、北京は言わずと知れた中国の首都。中国はもちろん共産党が支配していますが、共産党で活動する人、いわゆる中国共産党員は1億人いる(NHK)と言われています。つまり、中国共産党員の数は、ベトナムやドイツの総人口よりも多いのです。政党の人口としては間違いなく世界1位でしょう。そんな共産党のお膝元北京は、なによりも政治の街です。中国各地を旅すると分かりますが、北京に来るとどこか他の街よりピリッとした印象を受けると思います。日本で言えば永田町や霞ヶ関に行った時に感じる緊張感と似ていると思います。一方で北京は歴史の街でもあって、紀元前11世紀にはここに都市があったと言われています。ニューヨークなんてせいぜい16世紀から、パリですら紀元前4世紀が起源なので、北京は地球上最も古くから都市化され、なおかつ今も世界的な大都市である地球上でほぼ唯一の場所と言えると思います(楽園の地図って勉強になるね)。ちなみに、世界で北京に対抗できる歴史がある大都市はイスタンブールですが、ここですら起源前660年あたりにようやく都市化されたようです。
楽園の地図的に北京と言えば、中国で最もロックが盛んで、バンドがたくさんいる場所であること、北京電影学院という中国唯一の映画制作の学校があるため、今や香港を上回る勢いの「映画の都」としての側面あります。
そんな北京から、まずは北京のグランド・ブダペスト・ホテルと呼ばれる「五猫娯楽モール」というモールを紹介しましょう。まずは以下のリンクを見てください。

五猫娯楽モール(イメージ)
なんかかわいらしさと気持ち悪さの微妙に混ざったモールですが、これは現実世界に存在する施設です。「五猫娯楽モール」は北京电影学院影视文化产业创新园という朝陽区にある施設。北京電影学院とは先ほど説明した、中国唯一の映画学校ですが、周辺にモールや映画館、カラオケなどができて、遊べるスポットになっています。そんな中で最も目を引く真っピンクな施設。SNSで目立つということで地元の若者の間でフォトスポットになっているようですが。どこか気が狂いそうな過剰な感じがいかにも中国。北京のグランドブダペストホテルと言われているみたいですが、それより色味がやばいかも。どちらかと言えばイカゲームの世界のような、北京をはじめ中国にはこのようなインスタ映えしそうな建造物がたくさんあるので、観光の方はぜひ行ってみてくださいな。写真が面白いだけで施設はそれほどのようではありますが。
◇
さて、北京からもう一つの話題は、私のイチオシミュージシャン、(窦靖童)リア・ドウ。1997年北京生まれの28歳。特に私が好きな曲は以下のMondayという曲です。MVのどこか無骨な街の雰囲気、曲調、彼女が持ってるフェミニンな空気からすべて、北京の今の空気を感じる曲です。ほんの少し立ち止まって北京の風を感じてください。5分ぐらいですから、ね。
さて、90年代を生きた人ならお馴染み、彼女はなんと、香港の国民的歌姫にて一時期日本でも人気だった、フェイ・ウォンの娘なんですよ。音楽ファミリーから生まれ一人娘もまた、ミュージシャンになりました。母親のフェイ・ウォンは曲は作りませんでしたが、娘は作曲も作詞もこなすシンガーソングライター。SpotifyやApple Musicにも配信されてますのでよかったらプレイリストに入れて聴いてください。余計な味付けがない分、飽きがこない楽曲なんですよ。彼女のこれからの活躍に期待です。
MVに登場する昔風の街並みは胡同(こどう/フートン)と呼ばれ、まあ路地裏って訳せると思うんですが、明の時代(1600年代)に急速に都市化で、通りと通りの間に無数の路地裏を作ったことが起源です。その後も北京では長らく、増える人口を吸収するのが胡同の役割でした。その路地裏は、公共の場でありながら、おばちゃんが洗濯物を干したり、おっちゃんが将棋に勤しんだりといった、とても牧歌的な場所で、道が狭いことから自動車の時代にも開発が取り残されました。現在では、昔の中国の古い街並みを残す場所として、再び世の中の脚光を集め、おしゃれに再整備される胡同も増えてます。五道営胡同なんか、オシャレになった胡同の典型例なんで、北京に行くなら万里の長城とか天安門に飽きたらぜひ遊びに行ってください。
以上、北京より楽園の地図がお伝えしました。
エリア2 上海

人型ロボット、ロボコップが交通整理する?(黄埔区)
ルイ・ヴィトン、上海に「船」を作る(南京西路)
上海、英語でShang Hai、日本語でシャンハイ、は、私がnoteで展開しているC-POP連載でもお伝えしたように、C-POPのふるさとであり、中国近代文化発祥の地と言ってもいいと思います。ここでは、上海市と、隣り合った江蘇省、浙江省の中から最新の話題をお届けします。江蘇省には東洋のナポリと呼ばれる運河が美しい蘇州市、北京と並ぶ古くからの古都で、日本人にとっては忌まわしい歴史のある南京市などを含んでいます。一方、浙江省は、中国人が住みたい都市と憧れ、中国随一の大企業であるアリババの本社がある杭州市などがある多彩なエリア。これらを合わせると1億7000万人程度の人口があります。一つの都市の周りだけで軽く日本の人口を上回ってるんですけどー。どんだけー。
そんな上海は、やはり現代中国と言いますか、AIやロボットが日本よりもはるかに社会に浸透中です。
上の動画では、AIロボット同士が自律的に会話する映像が、人間が人間をそそのかすときの動きと近いとして話題になっています。さてそんなロボットと人間が微妙に共存する上海では、交通整理ロボット、ロボコップが交通整理していると話題になっています。
Real-life ‘RoboCop’ makes debut in Shanghai — directing traffic at bustling intersection(ニューヨークポスト)
上海中心部の黄埔区の交差点に現れたロボット、通称「小虎」。鉄腕アトムを生み出した日本は、もともと中国なんかよりロボット開発において先行していました。この点(ロボットの活用)でも、中国は日本の何歩か先を行ってると思います。
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さて、上海と言えば、今や世界でも有数のファッショナブルシティだと思います。そんな上海では、いまもハイブランドが売れてまして、ルイヴィトンも社の威信をかけて、大型店舗を上海に開発中。ヴィトンが上海に作ったのはなんと船型の店舗を7月にオープンさせました。
上海の銀座こと、南京西路の旗艦店で、この画像を見たときは、果たしてこれはモダンなのか、オシャレなのか、悪趣味なのか、世界的ハイブランドのやることなのかちょっと首をひねりたくもなったのですが、でもWallpaperで紹介されている写真を見て、船内をイメージしたブティックなんなかを見たときには、あらこれもアリかもね、行きたいかも、とちょっと思ってしまった自分もいます。

さて、ルイヴィトンのようなハイブランドは、たいていフランスかイタリアが発祥のブランドです。ですが、今、世界中で最もハイブランドを購入しているのは予想がつくと思いますが中国人です。コロナ前に関して言えば、世界のラグジュアリーブランドのうち33%が中国内で消費されていました(参考リンク←この記事マーケティング好きには面白い話)。同記事によると、2030年には、世界のライグジュアリーブランド消費の40%が中国になるそうです。しかも、当然と言えば当然なのか、上海は中国内でも最もラグジュアリー消費が多い場所。つまり、上海人がブランドものをたくさん買うからパリやミラノの連中は飯が食えてる、とも言えます。ま、いっか、景気良さそうで。見栄っ張りなのは上海人の性格と言われていて、いかにもブランドを好むのでしょう。見栄っ張りな上海の女性の皆様、ラグジュアリーブランドも悪くないけど、チャイナドレスのほうがきっと君に似合うと思いますよ。
そんな超重大顧客に対して、威信をかけて作った船型のヴィトン。上海に行ったら遊びにいってください。以上、上海よりお届けしました。
エリア3 広州・深圳・広東省

秋葉原の30倍規模の電気街?電脳シティ「華強北」から目が話せない。(深圳)
「北上消費」で賑わう食の都、深圳と、世界的ブームのチーズフォームティ(深圳)
多謝!(ドウチェ!広東語でありがとう) 中国の省と呼ばれる「都道府県」に相当するエリアとして最も人口の多い広東省には、広州市や深圳市など大都市が存在する、中国でも最も経済的に豊かなエリアです。広州や深圳は日本人にとって北京、上海と比べると知名度は劣りますが、広州、深圳を含んだ4都市で中国の4大都市と呼ばれています。この地域で特に注目は深圳で、中国製のドローンや、iPhoneなど、世界を席巻している様々な商品はこの地域で製造されていて、いわば世界の製造拠点、中国のサンフランシスコ、ベイエリア、シリコンバレーに匹敵する都市と言えるでしょう。中国のIT分野、ハイテク分野などの未来を知るためには、この地域のことを知らなくてはいけません。
例えば深圳のドローン。世界のドローンの74%は中国産と言われていて、そして中国国内のドローンのうち、深圳市は60%のシェアを占めると言われています(参照)。つまり、単純計算で、世界中のドローンの44%(=0.74×0.6)は深圳市が作っていると言えます。いいですか、一つの都市が、世界中のドローンの半分弱を作ってるんですよ! どんだけー(2回目)。そんなサイバー都市深圳より、2つの話題をお届け。まずは、そんな電脳都市深圳で、秋葉原の30倍の規模を持つ電気街、華強北(フアチャンペイ)が有名です。中国のイノベーションハブとして知られる華強北では、「1メートルのカウンターから億万長者が生まれる」という有名な言葉があります。つまり、小さな売り場でオリジナルの商品を売る店舗が、中国を、そして世界を席巻する可能性があるという状況を示しています。今号の裏テーマは、中国が狙うアメリカ覇権の最先端の地図なのですが、そういう意味で、華強北こそ、中国版シリコンバレー、中国版アメリカンドリームの舞台と言えます。
さて、そんな中国の夢ある電脳街ですが、決して綺麗な話だけではありません。私はよくスマホを落としたり、iPadをなくしたりしますが、そのうちのいくつかは、盗まれたiPhoneが売られる華強北のビル、飛揚時代(Feiyang Times)で売られているかも知れません。
「ロック済みでも価値あり」盗難iPhone、中国で分解される驚くべき実態:国際密売ネットワークの闇を追う(XenoSpectrum)
上の記事、かなり面白いんで良ければ見ていただきたいです。ロンドンでひったくられたiPhoneが、9000キロを旅して、深圳の飛揚時代に辿り着くまでの工程がスリリングに書かれています。あなたももしスマホをどこかで無くしていたら、深圳に運ばれているかもしれません。
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さて、中国経済はみなさんが知る通り落ち込んではおりますが、例外的に深圳は今、好景気に湧いている街です。実は、香港から深圳に入国(一応、香港と中国は同一国家なので「入境」と言う)する手続きが簡略化したことから、香港からの日帰り観光客、お買い物消費者が爆増したんです。香港から見ると、深圳の物価は香港より激安。そんなわけで、現在深圳の消費の68%は、香港からの買い物客だと言われています(情報ソース)。かつて香港はむしろ中国本土からの観光客で買い物が爆増したんですが、逆転現象が起きてるわけですね。
深圳でもっとも賑やかな通りの一つが東門(Dongmen/东门步行街)を歩いている映像なんかをみても、街が活気づいていることがわかります。
深圳は1970年代までは、鉄道駅だけは通る、人口30万人の寂れた地方都市に過ぎなかったのですが、当時の共産党のボス、鄧小平の改革開放路線により、香港に隣接しているこの場所が経済特区に指定され、その後は大発展。30万人の人口がわずか30、40年で1700万人の中国第4位の都市になるというこのダイナミックが中国の凄まじさなのですが、新しい街だけあって道はとても綺麗です。戦後からずっと発展しているゴミゴミした香港から深圳にやってくると、街が綺麗だと思うかもしれません。
さらに、1970年代から突然大都会になった街ということは、どこかよその街から移動してきた人が多いということを意味します。だから、街は中国各地の出身者が多いので、中国の様々な地域の料理が食べられるのです。「味の見本市」などと言われています。そんな深圳発祥(と言われている)で、今や中華圏、さらには日本にまで広がった飲み物に、芝士奶盖茶 / Cheese Foam Teaがあります(こういうやつ)。これ、例の中華風タピオカティのお店に行くと最近置いてることが多いんですが、あまじょっぱいチーズ味のフォーム(泡)とお茶を合わせて飲むドリンクで、タピオカは甘くて苦手という人にもお勧めしたいドリンクです。僕もわりと好きです。以上、深圳よりお届けしました!
エリア4 成都、重慶、四川省

サイバーパンク、8D都市、とにかく建築物がヤバい重慶の魅力(重慶)
中国一のHip Hopシティ成都から目が話せない!(成都)
お次はパンダの故郷、成都、重慶、四川省よりお届け! このあたりには成都と重慶という二つの大都会があります。これまで、中国の都市部と言えば沿海部(海に面したエリア)に偏っていましたが、典型的な内陸の大都会が成都と重慶で、今後、より国際化が進むエリアとして注目を集めています。北京、上海、あるいは広東省に代表される国際化された中国と違って、「本物の中国」を体感するならこのあたりに旅行すべきだと思います。また、日本人にとって四川と言えば麻婆豆腐などの中華料理でしょう。辛味が特徴の四川料理ですが、棒棒鶏(バンバンジー)、回鍋肉(ホイコーロー)、担々麺などは実は四川発祥の中華料理なのです。あと、楽園の地図的には、成都はなぜかHip Hopが盛んで、成都のヒップホップシーンは世界的に注目を集めていますのでそのこともあとで紹介します。
さて、まず重慶ですが、この街の魅力はなんといっても不可思議な建物が多いことです。世界中からサイバーパンクシティと呼ばれています。有名なのは、まず建物を貫通するモノレールとか、マンションからマンションへの渡り廊下が突然高層階に登場したり、シンガポールのあれにそっくりなビルとか、マンションに突如天空への道が現れたり、岩肌に突然台湾の九分のような迷宮ビルが現れたり、6層構造のジャンクションとか。。
これらの不思議な都市構造から、重慶は「8D都市」、「サイバーパンクシティ」と呼ばれています。とにかく面白建築が見たい人は重慶にいってみてください。
◇
続いて成都より。成都はなぜかヒップホップが盛んなエリアなんですよ。そして、成都で生まれて、世界で有名になった4人組のラッパーがいます。その名はハイヤーブラザーズ(Higher Brothers/更高兄弟)。代表曲は何といってもMade In China。2017年の作品で、今のところ世界で最も売れた中国発ラップソングだと思います。かっこいいから聴いてよ。
あなたが磨いてる歯磨き、飼ってる犬、口紅、オフィスチェア、みんなみんな中国製だと高らかに歌う中国の4人組。彼らの世界的な成功のあと、成都にはヒップホップがたくさん生まれました。王以太とか苏芮琪(Su Ruiqi)とか。苏芮琪はその名も在成都って曲を歌ってますので聴いてみてください。
北京や上海だけをみていても中国はわからない。中国の勢いを感じる二つの内陸の街よりお届けしました。
エリア5 その他の中国

世界の資源戦争ゲームチェンジャーになるのか?「人工太陽」開発中。(合肥市)
それは中国版ブレードランナーか? 機械の音声が溢れる都市を描く「新世紀ロマンティクス」(大同市他)
さてこのブロックでは、北京、上海、広東省、成都重慶以外の中国からお届けします。みなさんがあまり知らないであろう大都市に合肥(Hefei/発音的にはホーフェイが近い)という街があります。あまり知られていないマイナー市とはいえ、人口は1000万人を超え、6つの地下鉄路線が走る、まあ名古屋ぐらいの規模の街と言えるかもしれません。そんな人知れない平凡な都市で、今、世界をひっくり返すヤバめな実験が行われているのをご存知でしょうか? 中国語の正式名称で「全超导托卡马克核聚变实验装置(Experimental Advanced Superconducting Tokamak、通称EAST)」「紧凑型聚变能实验装置(Burning plasma Experimental Superconducting Tokamak(通称BEST、絶対略称がわかりやすくなるようにしたよね?笑)」と呼ばれる設備。この設備、さっぱり全容が見えないと思いますが、簡単にいえば、「人工太陽」を作ろうとしている設備といえます。トカマク型核融合設備とは、すごく簡単にいえば、プラズマを超高音で維持することで、太陽の核融合反応と同等のエネルギーを地上で産んでしまおうという、控えめに言ってもずいぶん野心的な研究。これぞ中国の最新技術極まれりというわけで、この分野では今のところ世界では中国が先端を言ってます。「核融合」という言葉から非常にアレルギーを感じそうな日本人にとっては、ちょっと考えづらい設備とも思われるかも知れません。
中国の超伝導トカマク型核融合実験炉EAST、1066秒の高閉じ込めモード運転に成功——持続可能な核融合発電に向け前進
中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!
しかしながらエネルギー戦争、資源を巡った国際的な政治ゲームが繰り返される中で、自国でエネルギーを供給する重要性はみなさんも痛いほどわかっているかと思います。そんな資源争いのゲームチェンジャーになるかもしれない人工太陽部門で、世界の研究の先端をいっている中国。一方、我らが日本は、アメリカ、EUや韓国などと手を組んで、フランスにITERという設備を開発中です。なお、この設備に対しても中国の資本参加があり、はっきり言って人工太陽分野では、中国技術が独壇場と言える状況です。これは世界のゲームチェンジャーになるのか、どうなの?

BESTのイメージ画像。
◇
さあ、ちょっと疲れてきてませんか? 長い? 1週間なので分けて読んでね(昔の雑誌みたいに)。ただでさえ中国の話題を紹介するのって疲れるんですよね。国が元気ということは、取り上げるだけでも疲れるニュースが多いんだと思い知ってます。ので、ここから先の3つの話題は大人向けにしっとしりした話題を入れようと思います。リニューアル前の楽園の地図の映画や音楽のコーナーが好きだった方、お待ちかね。
1980年代、アメリカを中心としたSF映画の世界では、機械化が進んだ未来を憂いて、ディストピア(ユートピアの逆)を描いた作品を多数展開してきました。代表的な作品を挙げると「ブレードランナー」(1982/アメリカ)「未来世紀ブラジル」(1985/イギリス)「ロボコップ」(1987/アメリカ)など。さて現在、アメリカや当時の先進国が作ったディストピアを最も体現する場所はどこかといったら、現代の中国本土ということになるのではないでしょうか。世界最先端の顔認証技術と、街中に張り巡らされた監視カメラ、そしてAIを駆使した解析作業によって、犯罪を犯しそうな個人、政府に不満を持っていそうな個人を特定し、今日のあなたの機嫌まで政府が監視している社会。これをディストピアと呼ばないで何というのでしょう。映画監督、ジャ・ジャンクーはSF監督でも政府に楯突くタイプでもないですが、今の中国の、未来的な状況を、新作『新世紀ロマンティクス』で暗に映し出していると思います。ここまで紹介してきた中国の最先端技術が、何を産んだのかのであれば、「新世紀ロマンティクス」は、中国が失ったものにスポットを当てています。
ただ、この映画は、決して「絶望」「悲しみ」だけを映し出しているのではありません。それは、予告編で、機械の音声の的外れとも言える講釈に思わず笑ってしまう主人公の女性(チャオ・タオ)に込められています。未来は希望だらけでも、絶望だらけでもない。とにかく人間が時計を戻せないことだけはわかってる。だったら、今を必死で生きていくしかないんじゃないか。そう言ってるようなきがしています。この作品がもし気に入ったら、監督の過去作も見てみてください。なぜならこの映画は、ずっと同じ主人公(チャオ・タオ)で映画を撮ってきたジャ・ジャンクーでしか撮れないアイディアに満ちているからです。歴史を大事にする。それもまた、中国の、もう一つの姿です。以上中国本土5つのエリアより10の話題をお届けしました。これにてメインディッシュはおしまい。このあとはデザートということで香港を紹介しますわよ!
エリア6 香港・マカオ

Kiri T「哀傷和愛上算不算同音字」は何に傷ついてる?(香港)
映画「星くずの片隅で」は現代香港の空気が溢れている(香港)
日本全国1万人(推定)の香港ファンの皆様、お待たせしました。このブロックでは、香港からの話題をお届けします。
先ほどの深圳の話題では、「北上消費」で街から人が減ってるなんて話題もありますが、ここ香港はどこか寂しいムードが漂っています。中国の支配を恐れて、自由を求める人は香港を離れてしまいました。そんな香港にも、新しいスポットは続々と登場していて、相変わらず街は魅力にあふれています。でも、せっかく香港のムードが今は少し暗いので、街のスポットの話題ではなく、香港の今の空気を感じ取った曲と映画を一つずつ紹介しましょう。
実は楽園の地図1号で取り上げてる、Kiri Tによる今年の作品なんですが。このアーティストは私は香港で、いや中華圏で今活躍中のアーティストで最も好きかもしれません。昔は英語詞で歌っていましたが、今は広東語で歌う曲が多いです。そして、最近はなぜか悲しい歌が多いんです。この曲で彼女が歌っているのは傷ついた心についてですが、素直に聴くと恋愛の曲なんですが、どこか香港全体に漂うムードに傷ついてるような印象もあるんですよね。これは憶測ですけど。でも、いい曲ですよ。楽園の地図の発行は毎週金曜、週末の、1人になれるような時間帯があれば、そっと再生してみてください。歌詞はYouTubeでは翻訳できますから、歌詞込みで、ね。
◇
さて香港と言えばなんと言っても映画でしょう。とは言え、ジャッキー・チェンとかウォン・カーウァイとか少林サッカーとかで歴史が止まってる人も多いのではないでしょうか。私は毎年香港の新作映画をチェックしてますが、今年いちばんいいと思った作品はなんと言っても「星くずの片隅で」です。そこの映画好きのあんた。絶対見てよ、読後感のあるいい映画だから。
この映画のいいところは、特に不思議なことは何も起きず、奇跡も起きず、頑張ってるけど一向に生活が上向かない主人公の2人の魅力にあると思います。そして、生活の先にあるほのかな死の予感。仕方なくちょっとした悪いことをやって、台無しにする女性。すべてが愛おしい。
私がこの映画を勧める理由は、北京のドウ・ウェイと同様、ここに香港の今の空気が現れていると感じているからです。
巨大な国家に飲み込まれつつある、歴史に翻弄された街、香港よりお届けしました。
おわりに
(書かれた原稿を読み上げる助手)
助手「以上、中国と香港より最新の話題をお届けしました。どうでしたか、船長」
船長「むにゃむにゃむにゃ」
助手「おい!寝るな。四川風麻辣を顔にぶっかけるよ!」
船長「冗談でもやめてくれ。えーっとそうだな、上海のルイヴィトンの船の話題。なんか景気が良くていいよね」
助手「船長だけに船には食い付きましたか。そう思ってこのニュースをピックアップしたんですよ」
船長「つまりあれだよ。中国ってのは、ヴィトンを船にしたり太陽を作ろうとしたりとか、ものすごい面もあるけど」
助手「あるけど」
船長「一方で、その進歩に圧倒されたり翻弄されてりする普通の人々が居るわけで」
助手「そうですね」
船長「その歪みがまた音楽や映画など芸術になって表現されてもいるわけで」
助手「ほうほう確かに」
船長「そういう意味で、まあ国家は違ってルールも違うけど、人間というのは本質的には変わらないなって」
助手「そりゃそうだ。僕はなんか中国が羨ましいですよ。勢いがあって。日本に生まれてからずっと、不景気しか知らないから」
船長「ずっと不況だなんだと言われてたら日本人としての誇りを失うよね」
助手「そうですよ」
船長「そんなあなたには、日本人の誇りを取り戻せる政党がありまして」
助手「最後に微妙な話題をぶちこまないで。もう終わります。来週はお待たせ、韓国・台湾よりお届けします!」
(つづく)
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