楽園の地図136号 台湾のもっとも暮らせる街、台中(台湾一周旅完結編)

台中の緑道/無為草堂/森繁久彌と細野晴臣/カリートの道
船長と助手 2026.09.18
誰でも
Nanjing Fuzimiao, Nanjing, China

Nanjing Fuzimiao, Nanjing, China

もくじ

はじめに 
今週の楽園 台湾一周旅-3 高雄→台北(台中、新竹、桃園、新北経由)
今週のオアシス 無為草堂(台中/台湾) 
今週楽園で聴きたい音楽 僕は特急の機関士で/森繁久彌、他(東京〜大阪/日本)
今週楽園今週楽園に行けなかった人のために カリートの道(ニューヨーク/アメリカ) 
おわりに

はじめに

加害と被害、南京大虐殺

これを書いている今、私は中国の南京にいます。南京は魚料理が豊富で味付けも薄い江蘇省の中心地で、食事が美味しく、明の時代には首都だったこともある歴史の街です。まあ、日本で言えば京都みたいなところでしょう。中国の大都市の割には落ち着いた、いい街です。

さて、南京と言えば日本人には忘れてはならない出来事があります。「南京大虐殺」です。日本では「南京事件」とも呼ばれています。最初は、日本人に対する反感が強そうな気がして行く予定ではなかったのですが、来てみると、やはり物書きの端くれとして戦争記念館には行きたくなる。

私はもともと、中国政府のプロパガンダ的な施設なのかなと思っていました。ところが「侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館」は、日中の研究者の見解を紹介しながら、比較的淡々と出来事と被害を伝える展示で、中国に対する印象がかなり変わりました。少なくとも、極端な誇張ばかりの施設だとは感じませんでした。

日中で大きく議論が分かれるのは犠牲者の総数です。中国側は30万人以上とし、日本の研究者の間では数万人から20万人前後まで推計に幅があります。しかし重要なのは、大規模な虐殺や略奪、性暴力があったこと自体は歴史研究上ほぼ争いがない、ということです。仮に30万人という数字より大幅に少なかったとして、それで当時の日本の罪が軽くなるのでしょうか。私はそうは思いません。

私は個人主義なので、1930年代の日本の軍人が罪を犯したからといって、私自身が何かを恥じる必要はないと考えています。ただ、自分が加害者側の立場に立つ経験は人生で必要だとも思っています。日本では戦争を語るとき、自国の被害の記憶が前面に出やすい。でも歴史には様々な局面があり、ある場所では被害者で、ある場所では加害者だった。

人生もたぶん同じです。程度の差はあれ、人は加害性と被害性の間を揺れ動いている。常に自分だけを被害者だと思い、自分の正当性に溺れて生きる人は、少し想像力が足りないのだと思います。

少し重い話になってしまってすみません。ここからは、楽園が始まります〜。

今週の楽園 台湾一周旅-3 高雄→台北(台中、新竹、桃園経由)

前回から引き続き、台湾を一周した体験談を記したいと思います。台湾のカントリーサイド、東半分を旅して、高雄に着いた私。その後、西半分を北上しようとしますが、私が旅をした火曜日は台南で休みの店が多いということを知り、台南、そして前回も訪れた嘉義を飛ばして、一気に台中に辿り着きました。

楽園の地図は普段、ホテルや宿のことはあまり書きません。比較的アクティブなのでホテルの滞在時間が短いこと(こういう記事もだいたい市内のカフェで書いてます。だから私はカフェの話題が多いのね)、それに旅の費用を少しでも抑えるため、あまり個性のない宿に泊まっているためです。とはいえ、ドミトリーは疲れるので最近は利用してません。日本で言えば東横インのような、便利だけどあまり書くべきところがない宿が多いわけですね。

ただ、台中は他の都市と比べて宿代が安いので、今回はかなりいいホテルに泊まりました。

ここはかなりおすすめの宿。市内へのアクセスもよく、ラグジュアリーで、フロントも親切でした。「1969 ブルー スカイ ホテル/新藍天旅棧 BlueSky Hotel」。台中に寄ったらぜひ。

この時期は原稿作成に追われていたことと、あまりに居心地が良かったので3泊もしちゃいました。前回、台中に2泊したので、これで台中滞在は丸5泊。台中は旅というより生活が似合う都市です。後半はもはや観光客というより、住民のように過ごしていました。

台中のいいところは、歩いて楽しい場所が緑道近辺にわりと固まっていること。街歩きの始点としては、まずは台中市民広場を目指すと良いと思います。ここから審計368新創聚落あたりまで歩いたり、レンタルサイクルで回ったりしていると、楽しいお店がたくさんあるので、昼間はあっという間に時間が過ぎてしまいます。

夜はそれはもう、台北の士林を超えるかもしれない規模の夜市、逢甲夜市に行ってください。とはいえ、大人の皆さんは一回行けば十分だと思いますので(騒々しいしね)、別プランもあります。

この街はミシュランに掲載されたレストランが結構多く、しかも他地域のミシュラン店に比べると安価なのですよ。だから、ミシュラン巡りなんていうのも乙ですね。

ミシュランガイドー台中

おすすめは、星付きはそりゃ最高ですが、気軽に利用できるビブグルマンの中華。どれを選んでもうまいよ。

私もミシュラン店の沁園春に行ってきました。うまかったなあ。写真を見返すと相変わらず野菜ばっかり食べてますが、だから長らく旅をしても体調不良にならないんだろうなと思います。

台中に3日滞在したあとは、北上して新竹に行きました。ここはあまり観光客が来るような場所じゃないですが、熊本に工場を作ったことで日本でも知名度の上がったTSMCの本社があります。TSMCといえば、NVIDIAをはじめ、世界のAI企業が使う最先端半導体を製造している会社で、なんと時価総額の世界TOP10に入る大企業です。2026年8月末現在では、なんと世界6位。これがいかにすごいのかは、その上の5社を並べれば十分かと思います。1位NVIDIA、2位Apple、3位Alphabet(Google)、4位Microsoft、5位Amazon、そして6位がTSMC!!!

なんとTSMCは、非アメリカ企業では世界一なんですよ。日本のトヨタ自動車はもちろん、韓国のサムスン、中国のテンセントなんかよりずっと上。ということで、TSMCの会社見学に行こうとしたんですが、なんと入場にはかなり前から予約が必要らしく、中に入ることはできませんでした。調べてこいよって話ですよね。すみません。

私は資産のそこそこな割合を、いわゆるオールカントリーという世界中の会社に投資する投資信託に費やしてますが、オルカンを持ってる人はTSMCの株も持ってるんですよね。なんたって世界に冠する大企業ですから。ここ数年は半導体バブルで、TSMCさんのおかげで私も稼がせてもらいました。企業には入れてもらえなかったけど礼を言っておきました。ありがとうございます。笑

そして桃園市にも寄りました。ここでは「中壢観光夜市」というおすすめの夜市を聞いたので、行ってきました。桃園は日本で言えば埼玉みたいなところで、住民も多く暮らしやすそうですが、観光という点ではちと弱いかもしれません。でもまあ、台湾の日常を堪能したかな。

そしてついに、終着の台北市へ。台北には今回も、1週間ぐらい滞在しました。やっぱり居心地いいんですよね、台北。掘っても掘っても新しいお店が出てくる感じも大好きです。

台北のことはさんざん楽園の地図で書いたので、今回は省略して、またネタをためて、新たな切り口が見つかったら紹介します。

というわけで、台湾ぐるっと一周旅行。花蓮や台東など、あまり皆さんが行かないところにも行きましたが、台湾を立体的に捉えられた気がします。

雨のシーズンに行っちゃったから、それがちと残念でしたが。笑

今週のオアシス 無為草堂(台中/台湾)

台中ではのんびりした滞在ができたので、茶藝館に寄ってました。茶藝館とは、台湾や中国にある、お茶を飲みながら軽食を嗜む風流な場所です。昔ながらのお店には中国式の庭園が中央にあって、その周りが回廊になっていたりします。私は中国文化には特にここ1、2年かなり触れましたが、中国庭園ってなんか好きなんですよね。ちょっと迷路っぽくなっているところも好きです。こういうところ。

茶藝館には個室や半個室の席も多いので、軽食を食べてお茶を飲み、そしてお茶だけは大量にあるので、おもむろにパソコンを広げて作業しています。日本で言えばファミレスのようなところで(ちょっとそれは茶藝館に失礼か)、長居を前提にしているので、パソコンを広げていても怒られることもなく、ちょいちょい店員さんが差し湯をしにやってきてくれます。作業中にはありがたい。「追加の注文はありますか?」なんて言われて、じゃあこの、お茶に合いそうな梅のお菓子をください、なんていわれましてね。

少しパソコン作業に疲れたら、というか、たくさんお茶を飲むことになるので尿意を催すので(笑)、立ち上がり、トイレに向かいます。その途中で回廊をなんとなく眺めたり、池の鯉を眺めたり、写真なんか撮ったりして、そしてまた仕事に戻るわけです。

この時間がなかなか風流なんですよ。パソコンでやってる作業は「楽園の地図」ならまだいいのですが、経費の精算だったり事務作業だったりもします。でもなんか、昔の中国の文人や役人も、庭を眺めながらこうやって仕事をしたりしたのかなー、なんて思いながら。

想像しているよりもずっと安く、高貴に遊べますよ。台湾に行ったら、ぜひ茶藝館へ。

台中ならこの、「無為草堂」はおすすめです。台南なら、「耕読園」なんて良かったなあ。台北や高雄だったら、、たくさんあるから自分で調べてネ!

今週楽園で聴きたい音楽 僕は特急の機関士で/森繁久彌、他(東京/日本)

♪東京、京都、大阪〜

今週紹介するのは、1951年の日本の歌謡曲、「僕は特急の機関士で」。古い中国の歌のことを書いたりするので、中国の古い音楽に詳しいと思われている私ですが、それは半分正しくて半分間違っています。というのも、私は日本、アメリカ、欧州を含む世界各国の古い音楽を収集しているからです。

ということで、私が紹介しないともう誰も覚えてないであろうビンテージのポップスをサルベージ。70年以上前の曲ということですごく古めかしい音楽を想像するけど、意外と聴きやすくポップでしょ?

歌っているのは昭和の名俳優、森繁久彌ら。作詞・作曲・編曲を担当するのは三木鶏郎。1914年生まれの作曲家で、私はわりと大好きな人なんですが、1950年代の日本のCMソング草創期から活躍し、以降その第一人者となった人です。そう思って聴いてみると、この曲もとてもCMソングっぽいでしょ。

この曲の面白いところは、途中で熱海→富士山→駿河湾→沼津、そして浜松、名古屋、京都と、ご当地らしいフレーズを歌いながら進んでいくところ。浜松ではハーモニカが出てきて、「ははーん、浜松は音楽の街なんだなぁ」なんて思ったり。

ちなみにこの曲を知ったきっかけは、細野晴臣ら当時の凄腕ミュージシャンが集まったティン・パン・アレーの名曲「CHOO CHOO GATTA GOT '75」。この曲でも♪東京、京都、大阪とコーラスしてるんですよね。クレジットはされていませんが、三木鶏郎へのオマージュだということは明白です。

こういう古い曲をのんびり聴いてる午後って最高なんですよね。皆様も、こういう自分だけの聖域を大事にしましょう。

今週楽園に行けない人のために カリートの道(ニューヨーク/アメリカ)

『カリートの道』(英題:Carlito's Way)。時折見返したくなる映画です。若い頃はヤクザや半グレが銃撃戦をするようなギャング映画が意外と好きで、よく見ました。そういう映画の多くは忘れてしまったのですが、今も心に深く刻まれている一作がありまして、それが『カリートの道』です。

主演はアル・パチーノ、監督はブライアン・デ・パルマ。この二人は『スカーフェイス』(1983年)でも組んでいるので、10年ぶりのタッグです。他にもショーン・ペンなど、もう脂の乗り切った俳優たちが、もう一度名作を作ろうってことで集結してる感じが最高なんですよね。そして舞台は、1970年代の、まだ血の香りがするニューヨーク。伝説のギャング、カリートは、敏腕弁護士であり恩人でもある男の協力を得て出所します。本当に足を洗おうとする彼ですが、様々な障害があり、なかなかクリーンな仕事ができません。ここがこの映画の重いところ。

通常、ギャング映画の主人公の王道は、ギャングの世界でのし上がってやろうと奮闘する。でも彼はギャングを辞めたがっているのに、過去のしがらみで辞められない。人を殺したくないのに、流れのなかでまた血が流れてしまう。この設定の妙は素晴らしく、のちに多くの作品で模倣されることになります。引退して南国のバハマへ行くことを夢見て、駅に向かう彼。行く手を阻むギャングたちとの攻防を、類まれな危機察知能力で何度も切り抜け、ついにホームへ辿り着きます。ところが、そこである男の裏切りに遭う。このラスト何分かは本当に見てほしい。ネタバレとか言ってるんじゃないのよ。本当にいい映画はネタバレしても最高なんだから。それに、この有名すぎるシーンはもうみんな知ってるだろうしね。

この映画は公開当時、デ・パルマ&パチーノという大物タッグだけに期待も大きく、一部の批評家からは「過去のギャング映画の焼き直し」「意外と地味」といった評価も受けました。ところが、時間が経つにつれて、ビンテージのようにじわじわ評価が上がってきた作品です。フランスの映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」が、90年代のベスト3にこの映画を挙げたり、公開当時の反響からするとかなりの評価の反転。

それはおそらく、この映画が本質的にはギャング映画ではなく、人生とは何か、引退するということはどういうことか、という苦いテーマを描いた作品だったからだと思います。

面白そうでしょ。ぜひ見てね。

おわりに

助手「船長、台中に5泊したら、もう旅行じゃなくないですか?」
船長「そうだね。途中から観光地にも行かず、茶藝館で経費精算してた」
助手「それ、台湾まで行ってやることですか?」
船長「でもね、観光地を見なくなった瞬間から、その街が見えてくることもあるのよ」
助手「なんだその禅問答みたいな話」
船長「スーパーに行ったり、洗濯したり、仕事したり、いつもの生活を始めるでしょ」
助手「それはもう観光じゃなくて生活ですよね」
船長「でも旅だよ。やっぱりそれは、東京でする経費精算とは少し違うんだ」
助手「東京でもできるでしょ」
船長「いや、東京には茶藝館ないし、鯉も泳いでない」
助手「ファミレスでいいですよ」
助手「しかも今回の旅でも台北でタイ料理食べたり、台中でシンガポール料理食べたり、不思議なものもたくさん食べましたね。だったらタイやシンガポールに行けばいいのに」
船長「行ってるのよ。店入った途端、そこはタイだしシンガポールだし、映画をみた瞬間そこはニューヨークだし」
助手「そんなもんなんですかねえ。あ、ちょっと待ってください。船長の考えに従えば、日本のファミレスで中国茶飲みながら鯉の映像や茶芸館の映像を流してたら、それはもはや台湾では?」
船長「た、確かに、、いや、違う。ファミレスではおばちゃんが差し湯をしてくれたりしないよ」
助手「じゃあ僕がやりますよ。ほら」
船長「……なんか違う」
助手「何が?」
船長「旅先だと、経費精算ですらちょっと楽しいんだよ」
助手「それ、単に仕事したくないだけじゃないですか?」
船長「……」
助手「核心ついちゃいました?」
船長「次の街行こうか」

(つづく)

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