楽園の地図96号 タイ・イサーンで聴こえた音

Wat Thung Setthi, Khon Kaen, Thailand
もくじ
はじめに 人生とは(やっぱり)旅である
今週の楽園 イサーンとその中心都市、コーンケーン(タイ)
今週のオアシス Slove U(コーンケーン/タイ)
今週楽園で聴きたい音楽 Isan Lam Phloen(อีสานลำเพลิน)/Angkhanang Khunchai(อังคนางค์ คุณไชย)(ウボンラチャタニ/タイ)
今週楽園に行けなかった人のために すれ違いのダイアリーズ(คิดถึงวิทยา)(プーミポンダム/タイ)
おわりに
はじめに
人生とは(やっぱり)旅である
今週は、先週お伝えしたタイの地方都市コーンケーンから、コラート(ナコーンラーチャシーマ)、アユタヤと南下し、今回の旅の最終目的地バンコクに戻ってきました。
旅は川を下るようです。あるいは電車から車窓を眺める状態というか。車窓の向こうに広がる社会は現実ではありますが、すぐにその場所を去る旅人にとって、その場を感じることはできても深入りすることは不可能です。私たちにできることは、社会の現実をしっかり見届けることぐらい。いくらそこから見える景色が天国のような状態でも、地獄のような状態でも、ある意味では私に関係ないとも言えます。
私は、人生はそもそも旅だと思っていて、無限のグッバイハローがあるだけだと思っています。今日は誰かと別れ、明日は誰かと出会う。すべては運命という巨大なガチャに委ねられています。明日出会うのがどんな相手でも、元気よくハローと言える状態でいたいですね。あと、どんな辛い状況に、あるいは退屈な状況にあなたが陥っていたとしても、車窓の景色のようにいずれ状況は変化していきます。つまり、辛い状況に陥ってもクヨクヨする事はないし、ただ景色がすぎるのをじっくり待てばいいわけです。
さて今日は、個人的な興味があって、観光客はあまり行かない、タイのイサーン地方(イサーンとはタイ語で「東北」を意味します)4都市を回った印象を記します。普通の観光客は行かない場所ですが、なぜか私はこの地方に興味があって、8日間かけてイサーンを回ってきました。地元のひとからすると車窓からただ通り過ぎただけなのかもしれませんが、なるべく目を凝らしてその街の真実に迫ったつもりです。
今週の楽園 イサーンとその中心都市、コーンケーン(タイ)

タイ中どこも、寺だらけ、塔(パゴダ)だらけ。これはプラマハタート コーンケーン ナコン。
イサーンのことについて、ほんの少しでいいから知ってください
タイ。正式名称、タイ王国は、日本人にお馴染みの旅行地の一つです。タイと聞けば、そうですね、トムヤムクン(酸っぱからいスープ)とかパッタイ(甘うまい焼きそば)とか、あるいはタイマッサージとか、人によってはゴーゴーバーとかマムアンちゃんとかシンハービールとか。バンコク、チェンマイ、プーケット、パタヤ。この時点で10個の固有名詞が登場しましたが、そうやって日本人にとってとても馴染みの深い国の一つです。
多様なタイの魅力をあえて一言で記すなら、懐の深さと言えるかもしれません。カオサン通りに屯するバックパッカーから、トンローのおしゃれカフェにいる駐在妻まで。ヨガやオリエンタルな思考で頭がいっぱいのスパ好き、マッサージ好きから、男の欲望剥き出しのタニヤ好きまで。ありとあらゆる人を包み込む懐の深さがタイの魅力といえます。
そんなタイについて、皆様は各地方の特色を言えますか。日本にも、北海道、九州、関東、関西などと地方区分があって、それぞれの特徴があるように、タイも地方によって大きく性格が変わります。ガイドブックや公的書類などを見ると、たいてい4区分に分かれているケースが多いので、私もこの4区分に分けて説明したいと思います。4区分はこんな感じ。
中にはタイ中部を2つに分けて5区分にしたり(5区分だとこんな感じ)するケースもあります。ま、日本で言えば北陸を独立した1地方とするか中部にまとめるか、とかそんなノリですね。でも、最低でもこの4区分より大きく分ける事は難しい。それだけ、この4つの地域は雰囲気が異なります。

タイ地域の4区分(タイ中央部、南部、北部、イサーン(東北)部)。
4区分を順番に説明します。
1.タイ中央部(上記画像の黄色)/タイの中心。バンコクを中心としてタイの中心部。パタヤ、アユタヤなども含まれる。タイの経済的な大動脈。
2.タイ南部(同ライトグリーン)/タイの南部にびよーんと広がるマレー半島部分。有名なリゾート地、プーケット、サムイ島などを含む。リゾート地のイメージ。
3.タイ北部(同抹茶色)/地図で見ると北西部。古都、チェンマイを中心に、国境沿いの街チェンラーイなど含む。山岳民族などが多く多様な文化。
4.タイ東北部(イサーン)(同ピンク)/文字通りタイの東北に広がる土地。あまり観光客は行かない。
今回の主役は何を隠そう、4.のタイ北部(イサーン)です。はっきり言えば、最も観光客が寄りつかない地域と言えるかもしれません。なぜなのか考えてみたのですが、やはりバンコク、アユタヤ、パタヤなどのある中央部はもちろん、プーケットのある南部、チェンマイのある北部に比べて、イサーンには代表的な観光都市がないからと言えるかもしれません。最大の都市はナコーンラーチャシーマかコーンケーン(どちらも周辺地域も含めると人口50〜70万程度。日本で言えば宇都宮とか松山あたりぐらいの中都市)なのですが、どちらも相当タイが好きかゆかりがないと知らない都市名だと思います(松山や宇都宮を外国人が知らないのと同様)。
それでも、タイのイサーンには、少なくても私を魅了してやまないものがいくつかあります。まずはご飯から行きましょう。鶏を丸ごと焼いて味をつけたガイヤーンというメニューがありますが(たぶんあなたの近所のタイ料理屋にもガイヤーンはあると思います)、これはイサーン発祥の料理です。削った青パパイヤを使ったソムタムというサラダ、タイ語でカオニャオと呼ばれるもち米も、イサーンの人気メニューの一つと言えるでしょう。タイの中央部の人々はお米と言えばタイ米(ご存知、チャーハンを作ったら美味しいパラパラの米)ですが、実はイサーンの人はもち米を主食としています。皆様がタイ料理だと思って食べてるもののなかには、イサーンが発祥のものも多く含まれていると思います。

イサーン名物ガイヤーン(写真中央)、右上には同じくイサーン名物ソムタム。(Pa Ouan Potchana 2)
こうして、国際的には地味な地域でありながら、タイすべての人口の3分の1を持つ誇り高きイサーン。一方で、タイの他地域と比べるとやや貧困率が高いことから、バンコクに出稼ぎでやってくる人も多く、バンコクに住むタイ人のかなりの数が、タイのイサーン出身である人が多いと思います。独特の訛りがあるので(イサーン方言はタイ語よりラオス語と共通する)、バンコクっ子からは田舎者だとバカにされてしまうところもあります。ちょうど、日本における、東京と東北の関係に似ています。いわば、イサーンはタイの心のふるさとと言えるかもしれません。
イサーンオリジナルかつ謎めいた音楽、モーラムについて。
しかし、私がイサーンを気になるのはそれだけではありません。私にとって最も興味深いのは、イサーンには、モーラム、ルークトゥンという、オリジナルの音楽が存在するのです。モーラムはケーンやピンと言った独特の楽器を使う音楽で、タイのイサーン発祥の音楽ですが、バンコクをはじめタイ中聴かれていて、特におじさんやおばさんに好かれる、いわばタイの演歌といえるかもしれません。
百聞は一見にしかず。さっそくモーラムを聴いてください。
โบว์รักสีดำ(Bow Ruk See Dum) - ศิริพร อำไพพงษ์(Siriporn Ampaipong)
一聴してまずは日本の演歌や古い歌謡曲との共通点を感じられると思います。コブシ回しの感じ、サウンドのもっちゃり感やリズム感。でもそれだけではありません。例えば下の曲なんてどうでしょう。こちらもモーラムです・
Lam Tung Wai(ลำตังหวาย) - Chaweewan Dumnern(ฉวีวรรณ ดำเนิน)
これはトラディショナルなアレンジなのでわかりやすいのですが、ケーンやピンなどの楽器が効果的に使われています。この曲を聞くと、このジャンルは民族音楽の延長上にあるともいえます。
そしてこれが、日本の音楽好きの人が好きになるかどうかを分ける最も重要な要素なのですが、どこか不思議なグルーヴ感があるのです。定期的なリズムが微妙に変化していく感じのグルーヴに注目して聴いてみると、この古く感じられるジャンルの曲には独特の音楽的うねりを見出せると思います。これ、ミニマルミュージックとかテクノにも共通する、反復しトリップするような感覚。これこそモーラムの肝であり、耳が早い世界中の熱烈なコアファンにモーラムやルークトゥンといったイサーン由来の音楽が愛されている理由と言えるかもしれません。なんとなくわかっていただけましたか?
さて私は、そんなモーラム、ルークトゥンを求めて、イサーンを旅しました。行ったのは、ラオスとの国境の街ノンカーイ、その近くのウドンターニー、さらに南下したコーンケーン、さらにはコラート(ナコーンラーチャシーマ)の4都市を回りました。私はジャマイカに行ったら何も考えなくてもレゲエが聴けるように、イサーンに行ったら何も考えなくてもモーラムやルークトゥンにぶつかるものだと思い込んでましたが、それは半分当たりで半分ハズレでした。当たりだと思ったのは、確かにタクシー(配車アプリGRAB)のドライバーやバス運転手などが確かにモーラムを流していたこと、街中のソイ(路地)で民家からそのような音が漏れてくることなどです。一方でハズレだと思ったのは、自分から、「私はモーラムやルークトゥンに興味があってこの地方に来た」と言わないと、お目当ての場所に連れて行ってくれないということです。例えばある夜は、「イサーンの音楽を聴きに来た。どこに行けばいい?」と聞いて回ったところ、普通に歌がうまいシンガーがステージで歌う小粋なレストランに連れてこられました。
タイ人は、私たち根暗な日本人よりも数倍、数十倍音楽が大好きで、だからこうやってミュージシャンが歌う外食レストランがたくさんあります。これはこういうイベントなんてものではなく、このお店では毎日こうやってライブが行われています(ここはBoouy Barというお店です)。
こうやって、外食と音楽がすぐ近くにあるのっていいですよね。やっぱり音楽が聴きたくても、いきなりライブハウスに行くのってとても好きなミュージシャンでない限りハードルが高いじゃないですか。
うん、タイのこういうところはやはり素晴らしい。確かに素晴らしいけど、私が聴きたいのはモーラムやルークトゥンでした。考えてみれば、音楽好きの日本人がモーラムが好きなんていうのは、タイ人からすれば相当変わった人なのかもしれません。若いタイ人が日本にやってきて、とにかく音楽が聴きたいと言ってたら、とりあえず演歌を聴かせようとは思いませんよね。タイ人も、そして日本人も、時代に置き忘れてきた音楽の魅力にもっと気づいてほしいものです。
そうやってモーラム、ルークトゥンを求めて彷徨っていた私は、ついにイサーン生まれのソウルミュージック、モーラム、ルークトゥンを聴けるお店に出会ったのです。タワンデーンというお店で、これはタイでは有名なデカ箱チェーン店。イサーンだけでなくバンコクにも支店があります。

モーラム、ルークトゥンの伝統、タワンデーン。なんか、オートバックスみたいな見た目ではある。
今週の楽園は、ここ、タワンデーンだったと言っても過言ではありません。このお店の中には、まったく外からは想像もつかない別世界が広がっていたのです。
まずはなんと言ってもその規模感、大きさに驚きます。ちょっとわかりづらいかもしれませんが、音楽好きに例えますと、渋谷O-Eastより大きく、恵比寿のリキッドルームぐらいの大きさと言えそうです(実際にはすべて着席とテーブル付きのディナーショースタイルなのでリキッドルームほど多くの人を収容できないと思いますが、面積はリキッドルームぐらい)。
大きさにおっかなびっくりしてると、ステージからモーラムの大音量が聴こえてきたのです。
早い時間に到着した私たち(21時半ごろ)は、まだかなり空席の目立つ客席に通されました。この日は火曜日。ど平日ですが、ちゃんと人は集まっていました(このあと日付を跨ぐころには満席になります)。
私が驚いたのは、その規模感もさることながら、照明やデジタルサイネージが凝りに凝っていて、なんかパチンコ屋をさらに過剰にしたような感じだったことです。ちょっと過剰なほどの照明に照らされる歌手を見ているうちに、どこか現実ではない、AIが作ったどこか別の国の別の街に飛んでいくような気分になりました。うーん、これはトリップ感あるわ。この感じはレコードや音源を聴いてるだけではわからないこと。わざわざイサーンまで、現場まで来た甲斐があった。
なんか、ステージをみればみるほど、良い夢と悪い夢の間のような、どこかで見たデジャヴ感が押し寄せてくるような、演歌が異様に現代に適応した状況を見ているような、昭和的な下世話さが突然令和に蘇ったような、そんななんとも形容のしがたい不思議な感覚に襲われました。うーん、なんか、かなり忘れ難い一夜になりそうな予感(実際、この日から1週間以上経っているが、何度もこの情景を思い出す)。
こうして、どっぷりモーラムに浸かったのはたった一夜でしたが、それからというもの、タイを旅行中、ずっと心の中にモーラムが鳴り響いて止まりませんでした。ここまで書いてきて恐縮ですが、私は、このモーラムやルークトゥンというクセの強い音楽を、まだ好きか嫌いか判断しかねる状況です。ただ、だからこそ、ずっと気になってしまうのも事実です。恋愛に例えると自分のそれまでのタイプとまったく違うタイプの異性になぜか夢中になってしまう感覚とでも言いましょうか。記憶へのへばりつき方が半端ではないタイプの音楽だと思います。この感じ、ライブを見てないみなさんにも追体験してほしい。
夜も老けて、時計の時刻が12時を越えた頃には、お客さんも満杯(平日なのにみんな明日の仕事は大丈夫なのだろうか)で、ほとんどのお客さんはスタンディングしていました。いやー、すごい熱狂。そして、おじさんやおばさんは実は意外と少なく、若いお客さんが多かったことも驚きました。日本で例えれば古い歌謡曲や、演歌がたくさん流れてきたりするライブハウスに若者がたくさん集まってるというのはちょっと想像できないでしょう。でも、イサーンならそれが起こっているのです! いやー、イサーン、やっぱ来てよかった。
もちろん、音楽だけがイサーンの魅力ではありません。ちょっとマニアックなことを紹介してしまったので、万人にウケそうなイサーンの魅力を紹介したいと思います。まずは、バンコクと比べて異様に物価が安いことです。たとえばこれ。ナイトマーケットの洋服屋さん。

この服全部、10バーツ!(約45円!)
セカンドハンズ(中古)だとは思いますが、それにしても10バーツ(日本円で45円)で洋服やトートバックが買えるというのは、今時物価の上がったバンコクではあり得ない価格帯です。我こそはセンスのいいバイアーだという自負のある方は、こういう地域の安いナイトマーケットで、日本でも売れそうな掘り出し物の商品を見つけて輸入して売るというビジネスを始めるのはいかがでしょうか。
またイサーンには寺もたくさんあります。大きさはタイの他の地域と同じぐらいですが、ややカントリーサイドなだけあって敷地面積も広いです。心なしかイサーンの人の方が優しいと思います。お寺では念仏を唱えるから一緒に参加しませんかと誘われるし、レストランに行けばなぜか「日本から来たのか、ありがとう」と言って、一品おまけしてくれるし。どこか人生に寂しい気持ちになったとき、あるいは何も考えたくなくなったとき、そんなときは、イサーン旅行の出番かもしれませんよ。
今週のオアシス/Slove U(コーンケーン/タイ)

カフェというか、もはやキャンプのテントとタープのような趣。当然貸切。
山の中のカフェで美味しいコーヒーを飲み、おしゃべりして、モーラムを聴く。
さて、クラブ(音楽を聴いて踊る方)とパチンコの間のような、想像しいステージを見てもらったあとは、一転して対極にあるような自然の中にひっそり存在するカフェを紹介しましょう。Slove Uというお店なんですが。静けさが最高。モーラムのライブハウスと真逆。
ここはLonly Planetという世界的に有名なガイドで知りました。地球の歩き方や日本のガイドブックには登場していなかったカフェです。そもそも、コーンケーンやウドンターニーと言った、マニアックな滞在地は、日本語の情報は数えるほどしかありません。ガイドブックも遺跡や博物館の類をわりとさらっと紹介して終わりで、カフェの情報なんて載っていません。皆さまも日本語の情報だけに頼らず、英語やその他言語、あるいはGoogle Map、あるいは地元民のおすすめからも巧みに情報を仕入れましょう。でも大変だよね。大丈夫。そんな自分で調べる余裕がないよという方のために、私がこうやって自分だけの大切なお店をシェアし続けますよ。Google Mapの行きたいに入れとけば、いつかは本当にいけるかもよ。

美味しかったSlove Uのコーヒー。ちゃんとタイのコーヒをセレクトしていました。
ところでタイは、日本以上にカフェ大国です。小洒落たカフェがたくさんあります。特にみなさんが出向くであろうバンコクやチェンマイなどでは路地一つに対し数軒はあるほどたくさんのカフェがあります。しかもタイ人はカフェをやるだけでなく、今はコーヒー農園の運営なども手掛けてる人も多いです。タイで作られたコーヒー豆によるコーヒーは日本では、神楽坂のアカアマコーヒーなんかで飲めます。結構美味しいんですよ、タイのコーヒー。日本をはじめ世界中から熱い視線とお湯が注がれるタイのコーヒー豆。特にチェンマイ近郊のアラビカ種の豆なんて値段のわりにかなり美味しいので、そのうち高級化して値段があがる気がします。今のうちにたくさん堪能しておきましょう。
Slove U(Google Map)
今週楽園で聴きたい音楽 Isan Lam Phloen(อีสานลำเพลิน)/Angkhanang Khunchai(อังคนางค์ คุณไชย)(ウボンラチャタニ/タイ)
モーラムを代表する一曲
さて、イサーン特集を経てモーラムに興味を持った方も多いと思います。でも、どうやって調べて何を聴いていいかわからない。そういう方に入門編となる一曲を紹介したいと思います。とは言っても、その一曲をどれにするか。
チンタラー・プーンラープが2000年代に当時の人気No.1男性タイポップスシンガー、Bird Thongchai(バード・トンチャイ)とデュエットしたมาทำไม (Mah Tum Mai)は楽しくていいかもな、いややっぱり最新のアーティストがいいからラムヤイ・ハイトンカム(เด๋อเดี่ยงด่าง ลำไย ไหทองคำ)のเด๋อเดี่ยงด่างなんていいかもな。いややっぱりサブカル的には沖縄のDJ817さん(71号、72号ゲスト)がクラブでかけてたเต้ย อธิบดินทร์(Toey Athibodin)のงัดถั่งงัดなんか癖になる色っぽさでいいな、などなど考えていました。
ですが、やっぱりまずは王道を知ってもらうべきだろうということで、誰もが認めるこの曲。อังคนางค์ คุณไชย(Angkhanang Khunchai/アンカナー・クンチャイ) のอีสานลำเพลิน(イサーン・ラム・プルーン)を紹介しましょう。この曲は民族楽器のピンも使ってるし、ケーンも使ってるし、どこに出しても恥ずかしくないイサーン生まれの名曲です。作詞作曲はสุริยันต์ ปากศรี(スリン・パクシリ)という、イサーンっ子なら誰もが認めるモーラム界の天才作詞作曲家による曲です。
モーラムの多くは曲の始まりで歌詞にならない、「♪おおおぉぉおお〜お」とうなるような低音を出すのですが(ジャズやR&Bの世界ならいわゆるアドリブと呼んでるやつですかね)、あれを聴くとイサーンのライスフィールド(田んぼ)がそこにあるように感じます。って書けるのは私がイサーンに行ったから!(イサーンマウンティング)
歌詞の内容は、モーラムやルークトゥンの曲は7、8割ぐらいがそうですが、「捨てられた寂しい女性」による求愛の曲です。ただ、歌詞の内容を解釈すると、この女性とはイサーンという土地の象徴のようにも聴こえ、つまりこの曲は解釈によっては、田舎を捨てて都会に出てきた人の郷愁の曲かもしれません。まあ、演歌と同様の世界ですよ。遠く離れたタイと日本の伝統音楽に、演歌的な共通項が見出されるのが面白い。
この曲の歌手、アンカナー・クンチャイは、イサーンの中でも最深部であり最もモーラムが盛んな土地とも言えるウボン・ラーチャタニー県の出身です。私は今回のイサーン旅でウボンにも行ってみたかったんですが、イサーンのメインルートであるコーンケーンやコラートからかなり距離があるので断念しました。1955年に生まれ、七人兄弟の末っ子。子供の頃から学業は優秀でしたが、経済的な事情で進学を断念。小さい頃から歌も得意で、彼女を応援する父親がモーラムの師匠の元に教えを請いに行ってから、彼女の人生は大きく変わりました。1971年にはモーラムの歌劇団に参加(そもそもモーラムとは、歌手とバンドだけでなく、ちょっとしたコメディやダンスも含んだものでした)、やがてトップモーラム歌手としての活動を欲しいままにします。その後様々な、特に女性歌手がモーラム・ルークトゥン界には現れましたが、女性のモーラム歌手であれば誰もが必ず彼女の足跡と実績を意識したことでしょう。いわば女性モーラムの礎を築いた人です。そんなバックボーンを意識しながらこのMVを見ると、なんだか太古に発掘され封印されたありがたい歴史書を開くような感覚に襲われます。ぜひ、聴いて、観てみて!
今週楽園に行けなかった人のために すれ違いのダイアリーズ(คิดถึงวิทยา)(プーミポンダム/タイ)
湖上に浮かぶタイの田舎の学校で、奮闘する教師の物語
さて、今週はタイのイサーン地方特集でしたので、映画のコーナーも、タイの地方都市を舞台にした映画を紹介しましょう。と言っても、こちらはイサーンではなく、北タイ、ミャンマーに近いターク県のプーミポンダムというタイでもかなりの田舎、僻地の湖に浮かぶ湖上の学校(実際にモデルとなった湖上の学校は実在)を舞台にした心温まるストーリーを紹介しましょう。この映画はタイ映画として、アカデミー賞の外国映画のノミネートも果たした、タイでは人気の映画です。実際かなり面白いですよ!
タイ観光の目玉として、よく水上マーケット(ボートで物を売りに来るやつ)が紹介されますが、まさか水上学校も存在するとは! 電気も水道も電波もない超ど田舎に転勤してきたソーンは、地方の風習や子供たちの価値観の違いに戸惑いつつも、やがて先生と生徒という単純な関係を超えた絆が芽生えるまでの感動のお話! という縦軸のストーリーがありつつ、一方で、前任の女性教師のエーンの日記を偶然ソーンが発見したところから、横軸の別ストーリーも展開。同じ境遇だったエーンが教師として生徒に向き合う日々を綴った日記を読むたびに、最初は共感だったのが、やがてソーンの片思いに発展します。一度も会った事がないのに、恋の炎を燃やすソーンは、エーンに恋人がいることを知ってショックを受けます。やがて、エーンに会う事を決意するソーン。すれ違い続ける二人の恋の行方は?? 一度も会ったことのない異性に恋をするなんて、ちょっと甘酸っぱすぎると思った人もよかったら見てみて。タイの田舎ではそんな恋がとてもリアルに感じるはずだから。ついでにすれ違い続けてる二人の恋も、この映画みたいにかなっちゃうかもね。私はそう信じてます。
感動と恋愛の二大エンタメが同時に味わえるお得な作品です。おすすめ。DVDを借りるべし!
おわりに
船長「ああ、なんかお金がなくなってきた。ちょっと悪いんだけど20バーツ貸してくれない?」
助手「船長、いつもそんな事言って僕の安い給料からちびちび奪っていくじゃないですか。もうやですよ」
船長「しかたないだろ。二人で食べる食料を買ったり、掃除用具を買ったり」
助手「そんなの経費で落とせばいいじゃないですか」
船長「経費もなにも、売り上げなんてないんだから落とせないに決まってるだろ」
助手「売り上げがないのになんで僕たちはこんな航海を続けてるんですか?」
船長「それは決まってるだろ。それは、、、はて、なんで航海してるんだっけ?」
助手「え!? 目的、知らないんですか?」
船長「いや、なんか、長く航海してる間に目的を忘れちゃったよ」
助手「いやいや、やばいでしょそれ」
船長「お前だって偉そうに言ってるけど目的が何か知らないんだろ?」
助手「僕は助手だから目的なんて知らなくてもいいんですよ。この船を助手するのが僕の仕事であり、目的ですから」
船長「え、そんなのずるくね? なんでいつもお前は俺に面倒ごとを押し付けるんだよ!」
助手「そりゃ船長だからでしょうよ!」
船長「なんだそれ、じゃあ俺も助手になる」
助手A「あ、なんか、自分の名前にAが付いた」
助手B「助手が二人いるのも面白いな」
助手A「いいですね」
助手B「最高だよー。ねえ、二人で、踊ろ」
助手達「♪いつも船に乗って旅らしきことを続けてるけど〜(続けてるけど〜)」
助手達「♪本当は旅の目的も〜、このマガジンの目的も〜」
助手達「♪何がしたいのか〜(何が目的か〜)まったく、わからない〜」
助手達「♪でもー、そこそこしあわせ〜るるる〜」
(つづく)
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