楽園の地図68号 神田桂一さんと日本のお笑い話
Dotonbori, Osaka, japan
もくじ
はじめに
お笑いについて存分に語ろう! ゲスト 神田桂一さん
〜実は低俗な笑いが大好きな楽園の地図
〜笑いと世代と倫理観
〜M-1グランプリと競技性の笑いが変えた芸人感
〜「ストリート」と「スクール」
〜Youtuberは現代の河原乞食である
〜神田さんおすすめのYoutuber
〜コメディアンと政治、思想(ひろゆき、上岡龍太郎)
〜現代の作家、神田桂一の苦悩〜「お笑い」の本当の力
〜「付録」楽園の地図的、出てくるとつい見ちゃう芸人ランキング
今週の楽園で聴きたくない音楽 アナーキー・イン・ザ・UK/セックス・ピストルズ(ロンドン・イギリス)
おわりに
はじめに
私は大阪出身です。大阪府吹田市という場所で生まれました。6歳までしかいなかったのであまりよくわかってないのですが、それ以降も転々としたので、私にとって精神的なふるさとがあるとすればやはり吹田市ということになるのでしょう。と誰かに言うと必ず「大阪弁じゃないですね」「大阪の人じゃないみたい」と突っ込まれます。まあ、気持ちはわからなくはないです。母は東京の葛飾区出身で、そのことが私の会話にかなり関わってるはずです。私は小学校に入学して、必死で大阪弁を習得した記憶があります。子供の頃から本が好きで、文章から言葉を覚えていったので、抑揚のある言葉、イントネーションが苦手なのかもしれません。
ここまで書いてきてわかると思いますが、地域的なアイデンティティというか、愛郷心はあまりありません。大阪がよそ者にバカにされようが一向かまわないし。海外に渡航するようになってからはじめて、私は確かに日本人である、地元は日本であるというアイデンティティを感じるようになりました。国内においては、地元とか、あまり考えたことがありません。
でも私が生まれた吹田と言う土地は、私と言う存在を表しているようでもあります。吹田には千里ニュータウンというニュータウンがあって、これは「日本最古のニュータウン」と呼ばれています。高度経済成長期、日本中で住宅が足りなくなって、各地にニュータウン計画が作られましたが、それの最古だから、ということらしいです。私は心のなかで突っ込みました「古いんか新しいんかどっちやねん」と。吹田市は大阪万博(1970年)の会場でもありました。万博は未来をテーマにした博覧会ですが、それは私にとっては過去の話でした。1981年生まれなので。「過去にあった未来の祭り、の跡地」。それが子供の頃万博公園で遊んでいた(万博の跡地は公園化された)私の印象です。過去なのか未来なのか。私の存在感の希薄さ、アイデンティティの希薄さ、ねじれ、両極、アンビバレンス、古いものに新しさを感じる感覚。私のそういう個性を象徴しているような街でもあります。
さて、今日は、同郷の作家・ライターの神田桂一さんを招いて、「日本のお笑い」というテーマで話しました。(神田さんの前回の台湾&バックパッカー話はこちら→ 14号、15号)今回は世界は関係ありません。ほぼ日本国内の話です。私は無類のお笑い好き。神田さんも吉本興業で「マンスリーよしもと」という雑誌を作っていたぐらいのお笑い好き。2人のお笑い好きの話は、意外な方向に展開しました。
神田桂一さんのプロフィール
Wikipediaでだいたい合ってると思われます。。私が気安く話しかけられる作家の1人です。いつも話を聞いてもらってありがとうございます、先生。
実は「低俗な笑い」が大好きな楽園の地図
楽 お笑い全般、見てますか?
神 お笑い全般のこと語れないなあ・・・。同じことを繰り返してる感じがして見る気が失せたっていうのが僕の結論です。
楽 なるほどね。でも私は実はお笑い大好きなんですよ。楽園の地図では海外のことばかり取り上げてますけど、唯一昔から変わらないのが、日本のお笑いが大好きなんですよね。それも低俗とされてるようなバラエティが好き。それだけは昔から変わらないんですよね。
神 なるほどね。
楽 研究者的な目線で、アメリカのスタンダップコメディとか見たりしてますけど。ネットフリックスとかで海外のコメディも見れるようになってきてるから。でもぶっちゃけ、そんなに面白くないですよ。いつも海外に意識を持てと言ってる僕ですが、こればっかりは日本の方がいい。
神 モンティパイソン(※1)とかはどうですか?
楽 あー、面白いですよね。面白いっちゃあ面白いんですよ。あと、サタデーナイトライブ(※2)なんかもコントによってはわりと面白いし。でもなんていうんだろうな。日本のコメディとは本質的に別物ですよね。モンティパイソンは考えさせられる。
(※1)1969年、「空飛ぶモンティパイソン」でデビューした、イギリスのコント集団。不条理、シニカル、メッセージ性。イギリスのコメディって感じです。ここから、「未来世紀ブラジル」、「ラスベガスをやっつけろ」などの映画で知られるテリー・ギリアム監督が登場しました。
(※2)1975年スタートのアメリカのコント(スケッチ)番組。メンバーを変えつつ現在も放送中。たぶん世界でいちばん有名なコント番組。
神 インテリの笑いですよね。
楽 そうですね。価値としてはわかります。でも私がお笑いに求めてるものって、疲れて家に帰ってきて、もう何も考えたくない時に、スタッフにひたすらいじめられてるクロちゃん(水曜日のダウンタウン)を見て爆笑するみたいなね。客観的に考えると、それどうなの? って話でもあるんですけど、やっぱりそういうのが面白いんですよね。何も考えなくていい面白さというか。
神 わかりますよ。僕もめちゃめちゃバカバカしいことが好きだから。昔の、「元気が出るテレビ」(※3)の「早朝バズーカ」(※4)とか大好きだから。
(※3)「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」日本テレビ系。1985年〜1996年放送。司会はビートたけし。VTRをスタジオで見て笑うタイプの番組の元祖。「こんな◯◯はイヤだ!」とフリップを紹介するたけしメモのコーナーや、ヘビメタ運動会など多数の人気企画を生んだ。
(※4)いわゆるドッキリ企画。事情を知らないタレントが寝起きでバズーカ砲を喰らうという大変理不尽な企画でした。シリーズで、早朝SM、早朝ウォータースライダーなど数々の名作が。。
楽 はいはい。
神 ああいうの大好きだから。
楽 あんなの今できないですけどね。完全に人を傷つける笑いですからね(笑)。
神 早朝バズーカとかやばいですよね(笑)。
楽 よくあれ許されてましたよね。
神 なんの意図もないですよね。ただ人をいじめて笑わせるためにやってますよね。
楽 ひどいですよね。
神 でもめちゃくちゃ面白かったじゃないですか。
楽 面白かった。何一つあとに残らないですけどね。ただ面白いという以外何の価値もない(笑)
神 何一つ生まれないですけど、面白かったんですよ。
楽 面白かった。だから、あれをゲラゲラ笑ってる状況が倫理的にどうなのか、という問いは残るけど、面白いというのは、どうやっても否定できないですね。倫理観で言えば、10年ぐらい前に号泣議員って言って、政務調査費の着服の疑いがあった議員が記者会見を開いたんですけど、会見中に号泣してなかば発狂しちゃって、その様子がニュースになったケースがありましたよね。あの人は笑わせようと思って会見を開いたわけではないから、いくら着服の疑いがある議員だからと言って、その様子を笑うのってどうなのかって問題はあると思うんです。でもそういう頭で考えてる倫理観を飛び越えて、見ると視聴者としては笑うしかなかった。笑っちゃいけないと思って我慢しても笑っちゃう。だから、笑いって、倫理観より前に来る反応なんですよね。
笑いと世代と倫理観
楽 そういうタイプのバカバカしいテレビは、今の若者が見ても面白いのかな。
神 そこがわからないんですよ。今の子が早朝バズーカを見て笑えるのかどうかっていうのが。多分そのことで、僕らが世代的に偏ってるのかどうかの指針になると思うんですよね。
楽 それでいえば、自分をよく見せようとする感じがしてイヤだけど、子供の頃テレビのお笑いを見てて、笑ってるんだけど、一瞬、ちょっとかわいそうみたいなときってありましたねそういや。
神 あー、そうですか。
楽 子供の繊細さには引っかかるものがあったかもですね。
神 僕はそういう倫理観は欠如してましたね。浅草橋ヤング洋品店(※5)の「ホームレス改造計画」(※6)もめっちゃ笑って見てました。
(※5)「浅草橋ヤング洋品店」(テレビ東京系)1992年〜1996年。通称、浅ヤン。出演はナインティナイン、浅草キッドなど。総合演出はテリー伊藤。ロケでは江頭2:50が身体を張りまくっていた。
(※6)ホームレスに洗練された衣装を着せるとカッコよくなれるか、という主旨の番組企画。クレームが殺到し放送中止となった。
楽 あれも演出がテリー伊藤ですよね。だから、テリー伊藤がひどいんでしょうね(笑)、はっきりいうと。
神 人権的にどうなのか、というテレビ番組の企画は結構ありましたけどね。
楽 「電波少年」(※7)とかもひどかったからな。そういうタイプの笑いは、「水曜日のダウンタウン」まで今も永遠と生きてますけど、今後はどうなっていくんでしょうね。
(※7)「進め!電波少年」(日本テレビ系)1992年〜シリーズは2002年まで続く。猿岩石(有吉弘行の元コンビ)のヒッチハイクの旅などが有名だが、初期は司会の松村邦洋が渋谷のチーマーに追われたりと大変そうだった。
神 そうだな。ある程度落ち着くんじゃないですか。
楽 少しずつクリーンになっていくんですかね。
神 クリーンというか、お笑いが原点回帰するのかもしれないな。今ってお笑いがめちゃくちゃ人気ですけど、人気がなくなったらまたアウトローな世界に戻ると思うんですよ。
M-1グランプリと競技性の笑いが変えた芸人感
楽 なるほどね。今って「M-1グランプリ」がお笑いのモードになってるじゃないですか。あれで勝つ芸人がいちばん面白いってことになってて。ただ、あれは明らかに競技性が高いと思うんですよ。4分って持ち時間が決まってて、その中でどうやってたくさん笑いをとるか、印象を残すか、という競技になってる。で、競技になったら頭のいいやつが勝つんですよ。傾向と対策を練れるし。
神 そうですね。
楽 令和ロマンとか、高学歴じゃないですか。彼らは頭がいいですよね。でもそうなってくると、お笑いって本来そういうものだったのかな、っていう疑問が残るじゃないですか。テレビをつけてもラランド(上智大学)とか、高学歴の芸人が最近増えてるんですよ。でも、たとえばジミー大西みたいな、どうしようもない人っているわけで。4分でネタを作るとかって話じゃなくて、存在そのものがお笑い芸人である、みたいな人、一つの生き様が芸人みたいな人は、今後どうなるのかなって。
神 なるほどね。それはわかります。
楽 昔の芸人でいうところの、「飲む打つ買う」(※8)みたいなね。横山やすし(※9)みたいな、もう生き様そのもの、人生がお笑いみたいな人ってもう出てくるのが難しいだろうなって思いますよ。
(※8)あんまりいい言葉じゃないんで気になる方は自分で調べてください。
(※9)昭和の芸人。西川きよしとコンビを組んで一時代を築く。「怒るでしかし」「メガネメガネ」が口癖。酒癖の悪さが原因で吉本興業を解雇される。
神 たぶん芸人界は健全化しちゃったことでこういう感じになってるんですよね。ほんとに芸人でしか生きられないような人たちがたぶん沈んでますよね。
楽 そうですよね。一方で、そういう競技性のお笑いに対して、存在そのものが面白いというか、永野(※10)とか、チャンス大城(※11)とか、そういうのが好きって半年ぐらい前に神田さんと話した時に僕は言ったんですけど。永野は最近再ブレイクしちゃったからまた意味合いが変わってきたけど、彼ら地下芸人には、そういう競技じゃない、生き様でやってる感じがして、面白いと僕は思うんですよね。令和ロマン・くるまやラランド・サーヤにはない「ブルース」がある。まあ、クロちゃんとかコウメ太夫とかもそうじゃないですか。どうしようもない人たちだけど、見てたいんですよね。
(※10)かつて「ゴッホよりラッセンが好き」で一発屋芸人的にブレイク。その後低空飛行だったが、ここのところ毒舌キャラで50歳で再ブレイク中。
(※11)ずっと浮かばれない芸人として過ごしてきた壮絶な人生が、強いエピソードトークを生み、こちらもプチブレイク中。
神 もともと人って異形のものを崇めたいんですよね。昔から芸人ってそういう存在だったじゃないですか。それがなんかテレビ業界が良識ある人を求めるようになったことによって、本当にそういう芸人としてしか輝けない人がいなくなっちゃってるって可能性はあるかなって思いますね。
「ストリート」と「スクール」
楽 これってどの業界でも起こってることのような気がして。たとえばジャズって音楽は元々は黒人たちが路上で練習して、ナイトクラブでプレイして、ていう純度100%「ストリート」の音楽だったんですよ。でも今、ジャズをプレイする人は音大で音楽理論を学んでプレイする人が多かったりする。ジャズは「スクール」のものになった。ヒップホップはやっぱりストリートのものだけど、これだけ価値があがっちゃってるから、大学で理論を学んだ人がプレイする音楽になってくる可能性がある。ストリートとスクールの対立ってどの業界にもあって。ビジネスの世界ならMBA取ったよって人と叩き上げ社長の対立とか。で、それでいうとお笑いはスクールになりつつあるんですよ。でもそうなのかなって。ストリートの笑いもやっぱり強いんですよね。たぶんまだ勝者は確定してない。個人的には、私は低学歴なので、ストリートを応援したい(笑)。
神 社会的な視点で見ると、芸人ってある種のセーフティネットになってたんじゃないかなって思うんですよ。一般の会社とかで生活できない人も、芸人なら輝けた。それが企業の人たちがバックすることによって、そういう人たちは人知れず死んでいったんだろうなって感じはしますけどね。
楽 芸人って「猿回し」タイプと「猿」タイプがいると思うんですが、猿が消えてるわけですね。それでいえば、フワちゃんとかはどうなんですか?
神 フワちゃん、性格悪いですよね(笑)。僕は性格悪い人嫌いだから。
楽 あれとか、「ネオ猿」かなって気は少しするんですけど。会社員とかできなさそうだし。
神 意外と器用にやるんじゃないですか。先輩に可愛がられてるっぽいし。
楽 そっか。確かに。本当に不器用な人は、もうテレビに出てないですもんね。
神 出てないと思います。
楽 劇場とか、日の目の当たらないところにしかいない。
神 そうでしょうね。
楽 本来はM-1グランプリの主旨って、そういう日の目が当たらなかった人をフックアップしようって企画だったと思うんですけど、そういうろことにはたぶん引っかからないですよね。
神 引っかからないですね。
Youtuberは現代の河原乞食である
楽 だから神田さんのいう通りかな。でも、Youtuberとかって、無法地帯じゃないですか(笑)。
神 まあね。だから今、Youtubeは結構面白いんじゃないですか。
楽 そうですね。
神 わけわかんないやついっぱいいますもん、Youtube。
楽 ヤバいやついますよね。
神 僕の思考のせいかもしれないけど、そういうやばいやつを見て面白いとか言ってたわけじゃないですか。そういうのが一番楽しいんで。だから、Youtube、面白く見てますよ、僕は。Youtubeプレミアムにも入った(笑)。
楽 僕も入ってます(笑)。本来、芸能ってそういうもんですもんね。歌舞伎も河原乞食から始まったって言われてるし。そういうもんですよね。だから、今の河原乞食はYoutuber。
神 そうそう。混沌としてる場がいちばん面白いですよね。
楽 確かにな。
神 だからYoutube、今めっちゃ面白いですよ。
神田さんおすすめのYoutuber
楽 神田さん的に今注目している芸人とかYoutuberとかいるんですか?
神 今僕がいちばん楽しく見てるのが、貧乏独身中年たぬきつねって人たち。めっちゃ面白いんですよ。
楽 えー、知らない(笑)。
神 チャンネル登録者数2000人ぐらいしかいないんで(笑)。
楽 めちゃくちゃ早いな(笑)。神田さんそんなところまでチェックしてるのか。
貧乏独身中年たぬきつね(Youtubeリンク)
楽 タヌキさんの動画にずっと「自己破産者」って出てるのヤバいですね(笑)
神 そうそう。タヌキさんは自己破産してて、借金が500万円なんですよ。で、キツネさんは多重債務者。「タヌキザノンフィクション」と、「キツネザノンフィクション」があるんですけど、お互いがどういう困難を経て、どういう挽回策があるかっていうのをお互いがインタビュー形式で毎週語ってるんですよ。めちゃくちゃ面白くて笑いのセンスありますよ。キツネが散々、タヌキの自己破産とか借金500万とかを馬鹿にするっていうね。
楽 でもなんかいいですね。2人は仲良さそうで。
神 仲はいいけど、馬鹿にする(笑)キツネは、「タヌキさんは悪くないんです」「不況の波に」「時代の影に」「会社を倒産させて」みたいな、そういうナレーションがつくんすけど。
楽 ドキュメンタリー調なんだけど、ちょっと半笑いなんでしょうね(笑)。
神 そうそう。このYoutuber、伸びますよ。テロップで横に常に「自己破産借金500万以上」って出てるのがすごい面白い(笑)。
楽 たしかにこれは、テレビの地上波ではやらない笑いですよね。本来はニュース番組とか硬派なノンフィクション番組とかで、かわいそうな人として出てくる人たちですよね。
神 それを笑いに変えてるのがすごいなと思いますよ。このチャンネルは、視聴者にビタミンを毎回届けるっていうコンセプトなんですよ。視聴者に「おれより下がいるんだ」って思ってもらって元気を与えたいんです。で、「今回も視聴者にビタミンを与えねばいけないので」みたいなナレーションが入るんですよ。
楽 バカにしてるんですけど、それをビタミンを与えるという名目でオブラートに包んで(笑)
神 そうそう。タヌキさんの住んでいる家がたぶん家賃1万9000円なんですけど、「いちきゅうハウス」って呼ばれてるんですよ。でもいちきゅうハウスの家賃がいくらかはタヌキさんの個人情報なので絶対に言えません。とかっていうんですよ(笑)。
楽 キツネさんがセンスあるんでしょうね。で、タヌキさんは、存在そのものが面白いというか。
神 そうそう、本当にそういう構図です。その構図が本当に面白いんで見てください。だから、「タヌキザノンフィクション」の方が面白いですよね。
楽 キツネがいかにタヌキをいじるかって構図ですね。いやー、やっぱり、これが笑いの原点なのかな。
神 うん。でも、こういうのって今はテレビではできないから。
楽 そうですよね。でもね、これに対して借金で苦しんでる人をバカにするなという話もあるんですけど、難しいところで、タヌキはキツネにバカにされることで救われてますよね。タヌキはこのチャンネルがあることで救われてる。
神 救われてますよ。
楽 チャンネルがなければただの自己破産者ですからね。そして、仮にタヌキひとりでYoutubeはじめてもたぶん伸びないだろうし、キツネにバカにされるから面白みというか、おかしみが出てくる。一方でキツネからしても、タヌキがいなければ笑いは生まれないだろうし。それぞれがお互いがいるから輝くわけですよね。これがコンビって感じですよね。
神 いま一番面白いお笑いコンビはたぬきつねかもしれない。
楽 いいですね。神田さんってこういうの、どうやって見つけてるんですか?
神 これは、おちょしっていう旅Youtuberが好きなんですけど。それも面白いんですけど。おちょしは無職で、普段はウーバーイーツのようなフードデリバリーの業務で生計を立ててるんですけど、それで稼いだお金で東南アジアとか旅に出てライブ配信したりするんですよ。それが好きで見てたんですけど、その関連で見ました。
おちょし動画
楽 そう言えば僕もYoutubeのおすすめで突然出てきた動画で、なんだっけな、童貞のような見た目の男性がいて、底辺サラリーマンと呼ばれていて。で、それをずっと撮ってるスタッフがいて。スタッフは常にその男を小馬鹿にしてるんですよ。で、その童貞が風俗レポートみたいなことをずっとやってて。茨城の田舎にタイマッサージで抜いてくれるお店があるらしいとか言って、移動して連れていく。番組がほんと、いろんな意味でひどいんですよ。取り上げるお店も違法性がありそうだし、その見た目童貞レポーターに対するハラスメントもひどいし。でも、レポートを続けるうちに、その見た目童貞サラリーマンがなんか強くなっていってるんですよ。1人の人間の成長ドキュメンタリーかもしれない。神田さんの話聞いて、それをちょっと思い出しました。
ポンコツチャンネル
コメディアンと政治、思想(ひろゆき、上岡龍太郎)
楽 霜降り明星って吉本のホープというか、今やテレビの期待を背負ってるコンビの一つだと思うんですけど、彼らはなにがすごいのかなって考えたら、霜降りって令和の笑福亭鶴瓶と上岡龍太郎かもしれないってふと思ったんですよ。まず、せいやは鶴瓶なんですよ。いまはたぶんせいやの方がテレビにたくさん出てると思うんですけど、有吉の横にいたり、爆笑問題の横にいたり、ダウンタウンの横にいたり。みんなせいやが好きじゃないですか。かわいらしくて。でも結構話芸はうまかったりポイントポイントでちゃんと笑いをとってる。いじられもするし自分で笑いも取れる。彼は令和の鶴瓶かもしれないって思うんですよ。家族に乾杯ってNHKで鶴瓶がやってますけど、あれの後釜は誰かなって考えた時に、せいやはありかもしれない。田舎のおばあちゃんにかわいがられてるせいやは目に浮かぶんですよ。
神 なるほどね。
楽 で、粗品は上岡龍太郎的な要素があるんですよ。
神 それはちょっと想像できないっすね。
楽 僕が思うに上岡龍太郎の芸風って、極論を言って、それをあの人の話術でさも正しいように仕向けていくというか。そういうタイプの笑いだなって。極論を言うんだけどなんか文句を言わせない強さがあるというか。粗品にはそういう要素があるなって思うんですよ。売れてる理由ってそういうことなのかなって。
神 上岡さんは教養がすごいからな。
楽 確かに粗品にはまだ上岡龍太郎枠は荷が重いですかね。
神 あの人は特殊ですよね。昔の「EXテレビ」(※10)とかで、野坂昭如とか、小田実とか、大島渚とか、錚々たる文化人とトークで渡り合ってますからね。
(※10)「EXテレビ」1990〜1994年放送。東京(日本テレビ)制作と、大阪(読売放送)制作に分かれるが、通常テレビ好きが「EXテレビ」を回顧する際は、大阪制作を指す。上岡龍太郎、島田紳助、若き日のダウンタウンなどが出演し、実験要素の強いバラエティ番組を多数制作した。上岡龍太郎が生放送でずっと1人でトークする回は圧巻。どうにかネットで探して見てね。
楽 そうですね。
神 今はそう言う、文化人と渡り合える人っているのかな。
楽 まあ、上岡龍太郎と世代変わらないですけど、ビートたけしですよね。あとは、、、あ、太田光じゃないですかね。爆笑問題太田。
神 あ、太田ね。
楽 いま、テレビで唯一文化人と丁々発止のやりとりができるのは太田光が唯一かも。
神 なるほどね。確かにそれはそうかもしんない。
楽 政治家や思想家相手にも割と言うというか、理屈で押していくし。でも太田さんが最後かな。それ以降の人はいないかな。
神 でも上岡龍太郎は時事問題でわらかしていたわけでもないしな。
楽 上岡龍太郎って何だったんですかね。
神 上岡龍太郎って確かに、極論を言ってわらかしてましたよね。
楽 そうそうあの人って結構過激思想なんですよね。パペポとか大好きだったけど、僕は中学生ぐらいだったんで、特に上岡龍太郎の話たぶん半分ぐらい意味わからず見てたとこあると思うんですけど結、かなり放送禁止用語を連発してましたよね。
神 探偵ナイトスクープを、怒って途中で帰ったりする人ですからね。
楽 今の芸人に、怒って途中で帰る人なんていないですよね。あ、そう言えばね、ひろゆきっているじゃないですか。「2ちゃんねる」のって枕詞つけなくてもいいぐらい売れてますけど。彼って、自分で自分を落として笑いも取るし、政治家や思想家にもずばずばいくし、アメリカ的な目線で言えばコメディアンだと思うんですよ。
神 あー、はいはい。確かにね。
楽 よく考えるとひろゆきのやってることってスタンダップコメディだなって。出演者をいじったりもするし。横に変なメガネの思想家(成田悠輔)がいて、インテリ要素もあって、政治的なコメントもするというか、応援する政治家を選挙前に決めたりするじゃないですか。あの感じってすごく、アメリカのコメディアンだと思うんですよ。
神 それはすごくわかりますね。
楽 彼は日本の芸能の範囲ではコメディアンではないけど、日本のテレビ番組が彼を必要とするのはなんとなくわかるんですよ。
神 ひろゆきが出てるのはテレビじゃないですけどね。
楽 あ、そっか。彼を必要としてるのはYoutubeとかAbemaTVとかか。
神 だから、今は時代がテレビじゃないんですよ。時代はYoutubeなんですよ。
楽 そっか。そうですね。
現代の作家、神田桂一の苦悩〜「お笑い」の本当の力
楽 神田さんはAbemaとか出ないんですか。出たら見るけどな。
神 炎上するでしょうね。変なこと言って炎上すると思う。
楽 神田さんは本を売りたいんですよね。じゃあ出た方がいいんじゃないですか。自分自身の広報というか、そういうことってどう考えてるんですか?
神 いや、広報しない。お任せってスタンスです。
楽 でも、純粋芸人が死んでいってるように、純粋作家も死ぬ時代ですよね。自分で発信しない作家はかなり厳しくなってますよね。
神 そうっすね。
楽 作家なのにSNSで広報せんのかいとか、Youtubeやらんのかいとか、そういうことを言われちゃう時代ですよね。
神 そういう時代にあらがっていこうと思います。
楽 ぶっちゃけ。僕も同世代ですけど、40代男性のSNSなんて誰も見ないよね。やってもウケない。
神 そうですよね。今、40代男性がいちばん世間で風当たりが強いですよね。たぬきつねに一発、がつんと世間に言ってほしいですね(笑)。
楽 でも、たぬきつねが人気になって、登録者数100万人とかいったら、たぶん面白くないですよね。
神 面白くない(笑)。たぬきつねは金持ちになると面白くないですから。不幸の上に不幸が重なってるのが面白いんで。
楽 確かにね。だから、この対談をまとめると、お笑いってやっぱりそういうものであるってことですよね。やっぱり人間って、いつ不幸のどん底に落ちるかわからない中で、お笑いというのは、現実世界をひっくり返す力があるというか、いちばん最下層の、いちばんかわいそうな人が一番面白いかもしれないっていう。そういう大逆転があるわけですよね。
神 そうそうそうなんです。大逆転が面白い。
楽 神田さんのいうセーフティネットじゃないけども、最後の逆転のチャンスかなと思うんですよ。お笑いは。
神 それがなくなったら世の中面白くないですからね。地位が固定化されてしまって。
楽 令和ロマンとか面白いけど、彼らはきっと他の業界にチャレンジしても成功してるだろうから、そう言う人が順当に勝ち上がっていくのは悲しいよね。
神 悲しい。ちょっとそういう風潮に争いたい気持ちはありますよね。
楽 持たざるものが勝ってほしいです。
(完)
ふろく
楽園の地図的、テレビやYoutubeに出てくるとつい見ちゃう芸人ランキング
1.永野
2.チャンス大城
3.FUJIWARA・藤本
4.とろサーモン・久保田
5.千鳥
6.ウエストランド
7.キンタロー。
8.ラランド・ニシダ
9.スリムクラブ・眞栄田
10.麒麟・川島
今週の楽園で聴きたくない音楽 アナーキー・イン・ザ・UK/セックス・ピストルズ(ロンドン・イギリス)
世界一の、持たざる者の大逆転
お笑いとは持たざるものの大逆転である、という結論になってしまったので、そこに添える何かを考えたところ、セックス・ピストルズの「Anarchy In The UK」が出てきたのでご紹介させていただきます。なぜなら、世界最大の一発大逆転は誰かと考えると、セックス・ピストルズをおいて他に存在しないと思ったからです。この曲の歌詞、本当にやばいですよ。翻訳されたやつ、おいときますわ。改めて見てみてください。トラウマ級の出来だから。
ロックの起源は1950年代にさかのぼります。チャック・ベリーとか。黒人音楽の中から現在のロックに相当する音楽が登場した。そしてプレスリーね。プレスリーは白人で、彼がロック(当時はロカビリーとも)をやったから、世界に広まった。イギリスではビートルズとかストーンズとかが60年代に出てきて、以降は商業化された音楽になったわけです。チャック・ベリーの頃のプリミティブさはなくなっていって、そこに広がっていたのは商業主義と複雑化する技巧でした。商業主義とはつまり売れるための音楽としてロックをやっていこうという感覚、技巧派とは、ロックが多様化する中で、テクニックや複雑なコード進行が増え、まあ難解になったと。これがだいたい1970年代。
そんな状況に加えて、1970年代のイギリスは大変な不況に見舞われていました。イギリス病と呼ばれた不況が襲い、若者は職にありつけず麻薬中毒者が街にあふれました。人々の不満はたまっていたわけですね。
セックス・ピストルズが結成された当初、メンバーは楽器もロクに弾けず、酒やドラッグに溺れた、まあロンドンのゴミクズのような4人だったわけです。ヴォーカルのジョニー・ロットンのロットン(Rotten)とは、腐ってるを意味しますが、名前の由来は歯が汚かった彼が周囲に「お前の歯、腐ってるぞ!(You're rotten! Look at you, your teeth are rotten!)」と叫ばれたことに由来します。控えめに言って最低なエピソードです。
典型的な「持たざる者」であった彼らは、そのやけっぱち精神で、ライブパフォーマンス中に放尿したり、血だらけになったり、まあやりたい放題だったわけですよ。そんな彼らに注目した大手レーベルEMIは何を血迷ったか彼らをメジャーデビューさせます。そして発表された楽曲が冒頭のアナーキー・イン・ザ・UK(1976年)。誰にでもできそうな簡単なコード進行で「イギリスに大混乱を! いつかそんな日が必ずやってくる」と歌う彼らに、夢を持てなかったイギリスの若者は夢中になりました。そのムーブメントは日増しに広がって、世界中にパンクの風が吹きました。持たざるものだった彼らは、ある瞬間、世界で最も存在感のある4人になったわけです。たったアルバム1枚で消滅してしまうのですが、彼らが巻き起こした大逆転劇は、私が思う限り世界最大のものだと思います。ビートルズとかストーンズとかピンクフロイド、そういう英国ロックバンドを全部、古いものにしてしまった。楽器もろくに弾けなかった彼らが。一曲で本人と世界を変えた-1グランプリがあれば、優勝かもしれません。その勢いのまま彼らは空中分解していなくなりました。
でも今もそれぞれで音楽活動は続けているようです。90年代に再結成した際は、「我々の共通の目的は金だ」と言っていたので、どうやら現在はとてもお金に困っているのかなと見受けられます。2006年、彼らの功績を評価した「ロックの殿堂」は、彼らをロックの殿堂入りに認めようとしますが、しかしながら彼らは殿堂入りを拒否します。明確にロックの殿堂入りを拒否したアーティストは、セックス・ピストルズが今のところ唯一の存在です。
永遠のパンクロッカー、アナーキストのジョニー・ロットンは殿堂入り拒否に当たってこんな声明を発表しました。全文引用してこの記事を終えます。
セックス・ピストルズとあの名誉の殿堂の隣には小便の染みがあるぜ。あの博物館のことだよ。ワインに小便混ぜるようなもんだ。俺たちは行かないぜ。おまえら猿回しの猿になるつもりはないんだけど、なにか?式典に出席して名誉を授けてもらうにはテーブルひとつにつき2万5千ドル(当時のレートで約263万円)、博物館に展示してもらうには1万5千ドル(当時のレートで約157万円)。それが非営利団体に回され、その団体が俺たちに名誉グッズをさんざん売りつける。詐欺まがいの称賛もいい加減にしろよ。俺たちに投票したというんだったらちゃんと理由も書いたんだろうな。おまえら匿名の審査員はそれでもやっぱり音楽業界の人間だからな。俺たちは行かないよ。お前らがなんにも気づいてないからだよ。セックス・ピストルズはこのクソみたいなシステムの外にいるんだということを。
目に見えないシステムの中で不自由を感じるあなたも、システムの外に出る覚悟を。
おわりに
船長「じゃーん」
助手「は! これは、HなDVDじゃないですか。この女優知ってますよ」
船長「届けてくれたんだよ、Amazonで」
助手「Amazonって最近海まで発送してくれるんですね。さすが」
船長「ちょっとさ、これ見たいんだよね」
助手「見ましょう!」
船長「いやいやそうじゃなくて。ちょっと君さ、しばらく甲板のほうにでも行って来んない?」
助手「なんでですか。甲板寒いですよ」
船長「お願い。終わったら交代するからさ」
助手「交代? いやいいですよ。一緒に見るから」
船長「いやだから違うんだって。1人で見たいの!」
助手「一緒に見たいの!」
船長「そんな男いないんだよ。普通こういうのは1人で見るって相場は決まってるんだよ」
助手「よくわからないけど外は寒いですよ。外に追い出すなんてひどいです。えーん」
船長「子供かよ。わかったわかった。これは後で見る。今は別のDVDを見よう」
(15分後)
助手「わははー。M-1グランプリ、何回見ても面白いですね。船長は優しいでしよ」
船長「ああ、そうだな(Hなやつ見たかったな。。)」
(つづく)
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