楽園の地図129号 「水」の蘇州、その魅力

東洋のベニス/平江河/蘇州麺/蘇州夜曲
船長と助手 2026.05.29
誰でも

もくじ

はじめにA マナーのグラデーション
はじめにB わかることとわからないこと
今週の楽園 水の都、蘇州。(蘇州/中国)
今週のオアシス Xingle Hotel 行樂酒店(蘇州/中国)
今週楽園で聴きたいBGM 蘇州夜曲(蘇州/中国)
おわりに

はじめに

中国は、楽園、か?

上海から蘇州、杭州、成都、重慶と移動中です。いつもは11時45分に配信される楽園の地図ですが、旅中ということで配信の遅れをお許しください。なんとか金曜に滑り込み!これもライブ感ということで。

このあと最終目的地の北京に移動して今回の大陸旅は終わり。本当は、もっと長く居たかった。東南アジアやハワイに行った時も、もっと居たいと感じることが多いですが、中国大陸の「まだ居たい」は、巨大すぎてまだぜんぜん掴みきれない、という意味の「まだ居たい」です。東南アジアのリゾート地、あるいはハワイやオーストラリアの海岸沿いなんかは、明らかに「楽園」ですけど、中国大陸は楽園なのでしょうか。わかりません。ただ、最初にGoogleなどふだん自分が使用しているあらゆるサービスが使えなくなって困った時期より、少しずつ生きる力を覚えて、やりきっています。なんとなく、大陸の人のサバイブ方法も身についてきました(綺麗なトイレの探し方とか、翻訳アプリの使い方とか)。

ちなみに私はこの文章を、重慶の素敵なオープンテラスカフェで書いています。今の大陸は、あなたが思うよりずっと豊かですよ。

相変わらず道端に唾を吐くおっちゃんもいますが、それはある世代より上の人だけですし、あと10年、20年もすればそんな人はいなくなるでしょう。一時期、経済ニュースなどで、中国経済は崩壊が近いと騒がれたんですが、あれは実は中国政府が、他国を油断させるためにあえて流したということが明るみになっています。現場に来てみると、中国経済は明らかに力強く伸びていることがよくわかります。この国はもはや、経済的なところだけを見れば、先進国に限りなく近づいています。今、世界で最も時価総額の高い企業はエヌヴィディアで、彼らは他社が真似できない半導体を開発しています。米大統領トランプは、エヌヴィディアの半導体を中国に持ち込ませないようにすることを決めました。なぜなら、AIの能力はそのまま国力に影響を与え、優れたAIの開発にはエヌヴィディアの半導体が必要だったからです。先々週の訪問でトランプは、中国にエヌヴィディアの半導体を売ってもいいよと言ったのですが、習近平の返答は「いらない」でした。これは自国でエヌヴィディアに匹敵するレベルの半導体を開発できる自信があるという意味だと思います。現場に来て感じる感想を簡単に言えば、「舐めないほうがいいぞ、中国大陸」ということ。

でもまあ、そんなことより私は文化的な中国の方が気になります。中華料理、将棋や囲碁、京劇、チャイナドレスと、考えてみれば中国は昔からカルチャーリーダーです。素敵な街もたくさんあります。例えば蘇州なんてどうでしょう?

今週の楽園 水の都、蘇州。(蘇州/中国)

蘇州のなんてことのない街並み。こういう風景が旧市街にいるとたくさんみれる。

蘇州のなんてことのない街並み。こういう風景が旧市街にいるとたくさんみれる。

蘇州は街中に小さな川や運河があって、「東洋のベニス」と呼ばれています。運河沿いは少しだけ気温が低いので、クーラーのない昔は、夏場になると運河沿いに人が集まってきて、将棋を指したりお茶を飲んだり、そういう優雅な暮らしが蘇州にはありました。蘇州は4000年の歴史がある都市で、ベニスより歴史は古く、ということはある意味、ベニスが「イタリアの蘇州」というべきなのかもしれません。すごいぜ、蘇州パイセン。蘇州が誕生した経緯とか、調べ出すと面白いのですが、中国の歴史を語るとなぜかおじさんくさくなってしまうのでやめます。

そんな蘇州は、北京や上海と比べると知名度の低い都市ですが、なんと言っても上海から高速鉄道(高鉄)に乗って30分で辿り着けるというメリットがあります。高鉄の駅は少し中心部から外れた場所にあるので、実際には移動は1時間弱ですが、十分日帰り圏内にあると言えます。なので、上海に旅行を計画している人が、少し足を伸ばしたいときに、真っ先におすすめできる場所です。ほんとうは、1週間ぐらいで、次回紹介する杭州と合わせて3都市を回るのがいいと思いますけどね。

蘇州は大商業地の上海から近いこともあり、中国でもベスト10に入る大都市ですが、観光的な意味で言えば、1日もあれば見れてしまいます。でも、日帰りでも問題ないですが、できたら一泊はしてみてほしいです。なぜなら、夜の蘇州もなかなかロマンチックなんですよ。

しだれ柳を美しいと思う感覚は日中で共有できる感覚の一つですよね。

しだれ柳を美しいと思う感覚は日中で共有できる感覚の一つですよね。

日本の京都などの古都は、中国の都市を模倣して作られたであろうことは、蘇州に来るとよくわかります。日本人からすると、まるで江戸時代のような街並みが広がっています。

最もメジャーな運河街は、平江河という場所の周辺で、ここを端から端まで歩けば、蘇州博物館拙政园、そして少し足を伸ばして双塔まで、主だった観光地はすべて見えてしまうという、観光に優しい都市でもあります。

徒歩で端から端まで平江河を歩いたら、帰りは舟に乗ってみるといいですよ。

手漕ぎボートの乗船料は40元(約820円)なので、気軽に乗ってみてください。思い出に残ること間違いなしだから。

運河以外で、観光的に印象に残ったのは拙政园でした。拙政园は、明の時代に作られた中国4大庭園の一つで、数々の役人、商人、文化人に愛されたスポット。位置情報機能を使った日本語による音声ガイドもあるので、前知識がなくても十分に楽しめます。

広いけど、箱庭のようにコンテンツが盛りだくさんの拙政园。

広いけど、箱庭のようにコンテンツが盛りだくさんの拙政园。

砂漠の中東地域では、噴水、オアシスは富の象徴です。蘇州の人も、水辺の魅力を存分にわかっていたみたいで、豊かな緑、豊かな池がたくさんあります。そして、私たち日本人のアドバンスは、西洋人と違って、説明を読まなくても魅力や意味を感じ取れるということです。

いいでしょ、蘇州。何度も言うけど、上海から30分。上海に行って蘇州に行かない人は、関西に行って大阪だけ見て京都を知らないようなものです。ぜひ行ってみて。

今週のオアシス 同得兴と蘇州麺(蘇州/中国)

さて、今週のオアシスのコーナーでは、そんな蘇州を代表する蘇州麺を紹介しましょう。最も有名な蘇州麺が食べられるお店は、写真の同得兴

どうでしょう、この澄んだスープ。私は日本ではラーメンは食べません。でもまあ、どちらかと言えば昔の屋台風ラーメンが好きで、最近のラーメンは過剰すぎると思います。そんな人にもぜひお勧めしたいのは、澄んだスープの蘇州麺。どうです?めっちゃうまそうでしょ? 私はお酒は飲まないですけど、二日酔いとか、疲れたときにも最高のメニューですよ。この優しい、澄んだスープは、どことなく蘇州の優雅な運河を想像します。蘇州のキーワードはやっぱり水ですね。

もう一つ、醤油ベースの麺もあるんですが、やはりこの透明スープの魅力には勝てないように思います。蘇州麺は蘇州でもかなりメジャーな料理で、万泰兴というお店でも食べたのですが、好きな人であれば食べ比べてみるのもお勧めです。

いろんな食べ方があるみたいですが、万泰兴ではスープに浸さず、具材と混ぜて食べました。これもなかなかのお店。このお店はミシュラン店ですが、ミシュラン店に相応しい味。ツルツルして滑らかな蘇州麺は、どことなくパスタみたいなところもあって、いろんな食べ方にマッチする不思議な麺です。

日本で中国風の麺と言えばビャンビャン麺とか蘭州拉麺のほうがメジャーで、派手さがない分知名度は低いですが、日本人には馴染みやすい麺なので、日本に進出したら確実に流行る味だと思います。なにより、どんなスープにも、あるいはパスタみたいにしても美味しいというところが素敵。

蘇州麺に代表されるよう、蘇州の魅力は、私たちの暮らしのなかにある過剰さを取り除いてくれるような、そんな豊かさがあるんですよ。どうです?蘇州も、蘇州料理も、なかなかいいでしょ。

今週楽園で聴きたい音楽 蘇州夜曲(蘇州/中国)

蘇州夜曲/渡辺はま子(日本)

苏州夜曲/白虹(Tsin Ting)

現在、中国側からこのYouTube動画は閲覧できません。無事にみれてるかどうか確認できないので、Spotifyへのリンクも貼っておきます。

蘇州夜曲(日中の2曲)

蘇州と言えば、蘇州夜曲という古い曲があります。この曲は1939年、まさに第二次世界大戦(日本は中国と戦争中)時にできた曲です。作曲は「東京ブギウギ」「青い山脈」などで知られる当時の日本のヒットメーカー、服部良一。作詞は詩人でありつつ作詞家としても活躍した西條八十。もともとは夜来香(イェライシャン)などの歌唱で知られる李香蘭(山口淑子)が歌う予定だったものが、日本語側では渡辺はま子が、中国語側では白虹が歌うことになったという複雑な経緯を持つ歌です。

この曲は、日本が大日本帝国構想をぶちかまして中国に侵攻していた時期に作られたこと、「支那の夜」という映画の挿入歌として歌われ、「支那」という言葉が20世紀後半、つまり戦後に差別的と認定され日本の放送局上で放送禁止となり、一度は歴史の彼方に置かれていました。言葉は生きていて、その言葉が差別的なニュアンスを持つかどうかは時代の文脈により、現在は日中双方にこの曲に関するネガティブイメージは消えつつあります。そういう一時期は放送禁止となったものの名曲として蘇った歌って実はたくさんあるんですよ。「ヨイトマケの歌」とかさ。

さて、諸事情を置いておくぐらい、この曲は美しい曲です。曲を聴いて、歌詞を聴いて貰えばわかりますが、この曲には差別的なニュアンスはどの方面から聴いても感じません。水の都、蘇州のありし日の素晴らしさを表現しています。中国の百度百科にも項目があって(百度へのリンク)、中国人も今ではこの曲が好きと言えるでしょう。メロディの雄大さは、まるで私が蘇州で乗った手漕ぎ舟のようにゆったりと流れ、優しい運河の流れを感じます。水辺には、荒波のような海もあれば、柳の木が垂れ下がる静かな運河もあるわけで、蘇州は後者の、ゆったりとした運河が街中に張り巡らされた街です。夜に運河沿いを歩くと、月の影が水面に映って、そこを舟が通ると月影がふわふわと踊るような、そんな素敵な場所なんです。旅のおともに、この曲をどうぞ。

おわりに

船長「おいちょっと。この荷物そっちに運んでくれよ」
助手「うわ、なんですかこの大きな荷物」
船長「ナイショ」
助手「ナイショにしないでよ。えい!見ちゃえ! うわ! なんか、大量のポストカード」
船長「これは日本行きの郵便物なんだよ。手紙を運ぶバイトをしようと思って」
助手「こういうのバイトでできるものなんですか?」
船長「よくわかんないおじさんが、これを日本に運んだらお金くれるって」
助手「そんなの絶対運んじゃいけないやつですよ!」
船長「まあでも、ただのポストカードだからさ」
助手「どれどれ。『花子へ。蘇州の夜、君のことを思い浮かべています』。こっちは? 『太郎、元気? 私は蘇州で船に乗ったよ』。確かに害のない恋文たちですね」
船長「今時恋文なんてロマンティックだよな」
助手「まあね。しょうがない。運んであげよっか。あ、ちょっとそっちに置くと波がかかって濡れちゃいますよ」
船長「やばい。濡れたらあいつら仕事できないと思われちゃうから濡らさないで! 余ってるジップロックあるからぬれそうなやつはそこに入れて」
助手「ジップロックに入れるって。。今時国際郵便の配達ってこんな原始的にやってるものなんですかね??」
船長「しょうがないだろ、コンテナとか持ってないし」
助手「あと、こういう郵便物って、早く届けないといけないんじゃないの? 僕ら日本までまだまだ時間かかりますよね」
船長「いや今時、急ぎの連絡はみんなメールだろ? そんな時代にあえてポストカード出すってことは、時間が経てば経つほどロマンティックなんだよ」
助手「確かに。時差がむしろ、長旅を越えてきたんだろうなという気持ちにさせてくれますもんね」
船長「そうなんだ。だから、日本に着いてからも、あえて港で寝かせて待たせようと思って。品川の倉庫を借りたんだ」
助手「まったくひどい話ですよ」
船長「あ、この手紙はさ、日光が当たる場所に干しといて」
助手「え? なんで?」
船長「そうすると少し茶色くなって、時間の経過を感じるでしょ。薄茶色くなったほうがロマンティックだから。あとスタンプをちょっと滲ませたりしてさ」
助手「はいはい。やりますやります」

(つづく)

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